
「あのときはよくあれだけ勉強ができたな」
ただ、予想もしなかった事態が起きたのは、第1志望校の入試当日。朝、予定通りの時間に起き、日課となっていた算数の問題集を解き始めると、娘は突如「こんなのわからない!」「もうムリ!」と叫び、ソファに突っ伏し泣き始めた。前日はいつも通り就寝し、朝も特段変わった様子がなかったため、その突然の変貌を前に女性は手の震えが止まらなかった。娘が取り乱していたのは、15分ほどだったはずだが、体感では30分にも1時間にも思えた。
「今日の試験は受けられないか……」という考えもよぎったが、娘はひとしきり泣いた後は淡々と問題集に向かい、解き終わると一言、「満点だった」とつぶやいた。
「それまでのパニック状態がウソのように落ち着いていきました。『いつもやっていることができた』と思えたことが大きかったのだと思います」
娘と中学受験のときの話になると、「なんだかんだ言って、あのときはよくあれだけ勉強ができたな」と口にすることもあるという。
「どこかハードな部活を経験したかのような、爽快感もあったのかもしれないですね」
そう語る女性の顔もまた、すがすがしい表情をしていた。
※【後編】<「中学受験」第1志望合格は「3人に1人」の実態 “不合格になった2人”は不幸なのか…当事者の思い>に続く。
(古谷ゆう子、AERA編集部・作田裕史)