恵まれた環境で、「有名企業は無理でも、どこかには就職できる」と安心感を持って就活に臨む学生も多い。明治大学を卒業し、現在は営業として働く由香さん(仮名・23歳)は、こう振り返る。

「仲の悪い親から離れたくて大学に進学しました。就職も『田舎には戻りたくない』という理由だけで東京の会社を探したんです」

 内定を得たのは東京の会社だ。特段「うれしさ」はないが、ノルマも厳しくなく、上司たちもハラスメントをしてこないので、仕事上の悩みは少ないという。

入社したいのは「安定している会社」

 就職情報会社マイナビの「マイナビ 2025年卒大学生就職意識調査」によると、大学生・大学院生の「企業選択のポイント」(2つまで選択)として「安定している会社」が49.9%で6年連続最多を記録した。

 もはや、若者たちは「がむしゃらに勉強して、いい会社に入る」「がむしゃらに働いて、大金を稼ぐ」というビジョンを持っていないようだ。

 若者たちが高望みをせず、「安定」を重視する様子は、取材を進めるとさらに見えてきた。

 現在、都内の専門商社で働く中央大学出身の聡志さん(仮名・27歳)はこう話す。

「就活時は、証券会社をいくつか受けました。勤め上げれば高収入になるのはわかっていましたが、『競い合う文化』が自分には合わないと感じて、志望を変えました。大学のOBによるリクルーター面談まで進んだ会社もありましたが、選考段階でもないのに『うちに入らないとタダではおかない』と圧力を受けたんです」

ワーク・ライフ・バランスを重視したハズが

 インターネット上でその会社を調べると「怒られると灰皿を投げられた」という口コミも出てきたため、面接に行くのをやめた。

 ワーク・ライフ・バランスを重視して会社を選び、豊洲にある従業員数100人程度で水産物を海外に輸出する中間会社の内定を得た。

「そこまで忙しくなさそうで、通関に関する仕事だと説明されていました」(聡志さん)

 しかし、現実は異なった。

「入社後、僕に与えられたのは『魚の入った発泡スチロールの箱をトラックに積み込む仕事』。始発で豊洲市場に向かい、発泡スチロールを積み込み、昼過ぎに会社へ戻って事務作業をする日々が続きました」(同)

 聡志さんは当初は「早く帰れるならいいか」と考えていた。だが、「実働時間は12時間を超え、眠気で書類を間違えたまま提出して上司が折れるのを待つ状態」(同)。

 肉体労働と事務作業の両立は不可能と感じ、1年も経たずに退職した。

 ブラックな環境や「こんなはずではなかった」という職場に直面した場合、若い世代の決断は早い。

 ちなみに、前出のマイナビ調査で、学生が「行きたくない会社」で最も多かったのは「ノルマのきつそうな会社」だった。

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