1年で「将来の夢」を諦めた
夢を諦める判断も早く、合理的だ。
「親の希望で公務員を目指しており、筆記試験は問題ありませんでしたが、昔からコミュニケーションが苦手だったため、面接で失敗しました。『浪人したところでコミュ障(コミュニケーションに難がある者)は治らない』と痛感し、公務員試験は1年でやめました」
そう語るのは立教大学を卒業し、現在エンジニアとして働く大介さん(仮名・31歳)。
在学中は4年間、公務員試験の勉強とアーケードゲーム『ウルトラストリートファイターIV』に打ち込んでいたという。なぜ1年で将来の夢を諦めたのか。
「本気で公務員になりたかったわけではなく、僕でも就ける仕事があればなんでもよかったんです。公務員試験失敗後、インターネット上で『コミュ障でもエンジニアになれる』という記事を読み、それを真に受けて文系SEを目指しました」(大介さん、以下同)
大介さんは新卒で、未経験者もOKというデザイン制作プロダクションに就職。
「案の定ブラック企業。未経験者を採用する時点で察するべきでした。朝10時から深夜まで働くのが当たり前、週7日労働で家に帰ってもコードを書いていました。手取りは20万円以下の裁量労働制で、残業代は出ませんでした」
新入社員は次々に辞め、同期も半年で全員退職。自身も1年経たずに退職し、実家へ戻った。
「働く気力がなくなったのと同時に『ストリートファイターV』が出たので、それに専念することにしました。親も僕がブラック企業で酷使されてやめたことを知っていたので、何も言いませんでした。その後、2年間、飽きるまでゲームをやり続けていました」
夢を見ずに現実を見る
もしかすると、「夢を見ない」若者たちは、むしろ「現実が見えている」と言えるのかもしれない。大介さんは、2年の充電期間を経て専門学校に通い、アルバイトから社会復帰した。
「アルバイトから契約社員になり、正社員雇用の話もありましたが、『もっとレベルの高い仕事がしたい』という気持ちが強くなり、転職を決意。ようやく、向上心が芽生えた気がしたんです。無事に転職に成功して、今はエンジニアとして手取り30万円を超えるようになりました」
この10年で働く意欲が大きく変化した大介さんに、今の趣味について聞いた。
「『ストリートファイター6』です」
(AERA編集部・古寺雄大)