日高屋の「中華鍋」はなぜ軽いのか?
なるほど!と思えるワケ
叱ることはないが、ダメとなったなら断固として辞めさせる。日高屋の強みは、単なるコスト戦略や立地選定の巧みさだけでは語れない。最大の原動力は神田正会長の経営哲学であり、創業時から一貫して「人を育てる」ことに重点を置いてきた。
家庭の主婦を中心戦力とする調理現場の改善は、象徴的な取り組みの一つである。中華鍋を軽量化し、腕に負担をかけない調理マニュアルを整え、厨房設計も見直した。体力に不安のある中高年でも無理なく働ける職場を実現するため、現場の声に耳を傾け、自ら設計に関与した。
このような改革は、業務の標準化とマニュアル化を促進し、店舗間の品質のばらつきを抑えることに貢献した。現在、調理担当の多くはパートタイムの女性であり、半年以内に全メニューを習得できる体制が整っている。属人性を排除し、誰でも同じ品質の料理を提供できる仕組みが、多店舗展開の基盤となっている。
人材採用にも独自の視点がある。創業当時、人手不足に対応するため、養護施設出身の若者や保護観察中の人にも働く機会を提供した。即戦力ではなく、「居場所をつくる」ことを重視した姿勢が、多様な人材を受け入れる文化の礎となった。
この考え方は現在の外国人労働者受け入れにもつながっており、ベトナムを中心に2600人以上の外国籍スタッフが勤務している。言葉の壁を乗り越えるため、注文用タブレットや多言語対応のマニュアルを導入した。調理や接客の工程も映像で学べる仕組みを整え、語学力に不安がある人でも現場で活躍できる環境を構築したのだ。
単なる雇用の拡大にとどまらず、人手不足の抜本的な解消や生産性の向上という企業の課題解決にも直結している。これらの施策は、社会課題を起点として自社の経営力を高めるアプローチであり、「Creating Shared Value(共通価値の創造)」の実例である。