「怒らない経営者」が従業員をクビにしたワケ
経営を支える神田氏は、埼玉県大宮市に開いた小さなラーメン店「来来軒」から事業を始め、50年かけて現在の企業規模へと育て上げた創業者である。
神田は「怒らない経営者」として知られ、従業員との信頼関係を何よりも重視してきた。「会社が成長できたのは従業員のおかげ」という感謝の気持ちが、神田氏の経営の根底にある。
昭和の外食業界では、怒鳴りながら指導するスタイルが一般的だったが、神田氏は一貫して対話を重んじる方針をとった。技術よりも人間性を大切にし、「朝の挨拶」「家族を大事にする心」など、基本的な生活習慣の指導から始めた。
従業員を喫茶店に連れていき、家庭の話を聞きながら信頼を築いてきた。こうした考え方は「人間形成」や「感謝の心」を掲げるハイデイ日高の経営理念に結実しており、現場の文化として根づいている。
ただし、穏やかなだけではない。社風を乱す言動や、仲間を馬鹿にするような振る舞いに対しては、毅然とした態度をとってきた。日経ビジネスの記者から「どうしても叱らなくてはいけなかった場面は、これまでになかったのですか」と問われた神田氏はこう返している。
《ずっと昔に従業員2人に辞めてもらいました。1人は、若い従業員がまじめに働いている様子を見て、「給料が上がるわけでもないのに、一生懸命やってバカだ」と言い放った。そしてもう1人は、友人との電話中、「俺は吹けば飛ぶようなチンケな店で働いているんだ」と口にしたんです》
《店がせっかくいい雰囲気になっているのに、それを壊す社員にいてもらっては困ります。「人手が足りなくなって、店が回らなくなってもいい。労働基準法に引っかかって裁判にかけられてもいい」。そう考えて、怒りはしないけれど毅然と伝えました。「もう来ないでほしい」。命がけでそう退職を促したんです》(日経ビジネス『ハイデイ日高・神田正会長が笑顔を絶やさないワケ』2019年6月20日)