
AERAで連載中の「この人のこの本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
『ふたたび歩き出すとき 東京の台所』は「&w」(朝日新聞デジタルマガジン)の人気連載「東京の台所」の書籍版で、同シリーズ4冊目となる。妻を亡くし、娘と2人暮らしのシングルファザーや神風特攻後続隊に志願経験のある94歳の女性など21人21カ所(一部沖縄もあり)の台所が登場し、それぞれの物語が綴られる。写真撮影は一部をのぞき2006年度木村伊兵衛写真賞受賞作家の本城直季氏。著者の大平一枝さんに同書にかける思いを聞いた。
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連載は13年目に入り、取材した台所は優に300を超える。書籍化は今回で4冊目。多くの支持がなければ実現できないロングランだ。台所に着目するとなれば、著名人などがしゃれたデザインとインテリアの空間で存分に腕をふるうという華やかなイメージが一般的だろう。実際多くの雑誌ではそうなっている。ところが大平一枝さん(60)が描く「東京の台所」はまったく異質で、悩みや苦しみと日々向き合う人、時にはほとんど料理をしない人まで登場する。
「『取材してください』という自薦のお便りをいただきますが、ピカピカの台所や料理自慢の人はまず除外します(笑)。そうではなく、長年やっていると、子どもが不登校だとか料理が苦手で困っているとか、ネガティブに見える書きぶりの中で『この人のルーツをたどっていったら何かある』とわかるようになるんですね。物語がきっとある。そして同じような境遇の人が励まされるだろうと思われる人を取材対象に選びます」
股関節を痛め、2020年4月から写真家の本城直季さんと交代したが、それまでは撮影も自身で行っていた。相当なハードワークである。もっとも、場所が東京に限定されることで利便性と多様性は担保されたのではないか。
「東京という大都市には高齢者や一人暮らし、LGBTQなどさまざまな人がいますから、自分は例外だと感じていた人でも、読んで『自分も一人じゃない』『私も料理苦手だけどがんばってみようか』と思ってもらえたりするんです」