
民主制が「戦争へ向かう狂気」の元凶になる?
小川 (「リーダー像論」でいうと、)例えば、ヒトラーやトランプみたいな人が中国で国家主席になる可能性は、ほぼゼロだと思うんですよ。実は民主制の世の中だからこそ、彼らは選ばれたんです。
ちょっとリスキーなことをあえて言いますが、「有権者が正気を保っている状態」から、もはや「正気を保てなくなりつつある状態」になると、民主制は簡単に狂気に向かってしまう危険性があると僕は思うんです。
和田 まさにその状況じゃないですか? 今。
小川 その背景には人々に正気を失わせるだけの格差と貧困のひろがり、将来への見通し・展望のなさ、絶望感が根本的にあると思うんです。
和田 アメリカがまたトランプを選んだこと自体、冷静な判断ができていないようにも見えますね。兵庫県知事にもう一回、斎藤さんが選ばれたり、N党の立花さんみたいな人がでてきてあんなフェイクをまき散らしたり。そしてそれが許されているというか、熱狂的に迎えられている。

小川 格差と貧困が拡大する社会を、人類がそのまま許したっていうことは、歴史上一度もないんですよ。必ず最後は内乱や内戦、革命、暴動が起きる。戦争でいったんチャラにして、また新たな体制を作る。その繰り返しが人類の歴史なんです。だから、今の格差と貧困の拡大が対話と合意形成によって無血で解決されない限り、いつか暴発につながる可能性はある。それが今一番の危機感ですね。
「法の支配、民主制は、平和と豊かさを前提とする」。これは司馬遼太郎さんの言葉です。それから最近、アメリカの政治学者ジョン・アイケンベリー も言っています。「自由民主主義には温室が必要である」。ビニールハウスの中で、温度と湿度を整えた状態でないと、自由と民主主義は育めない、っていうことなんです。
和田 2021年の対話のときも民主主義について話して、小川さんはやはり「豊かな暮らしをしていないと民主制は成り立たない」って言ってましたよね。
小川 一定のね。戦乱や飢餓や貧困の状態では、自由や民主主義を謳うどころじゃないだろうってことです。温室状態=平和と豊かさが崩壊すると、民主制は容易に狂気に振れてしまう。人々は破壊衝動を抱え、行き過ぎた格差と貧困を流血によって是正しようとする。それが未来に勃発する可能性を否定しきれない時代に突入してるんだってことを自覚しなくてはいけない。