しかし日本の保険制度では、経営上話を聞くことだけに時間をかけられないという実情があります。患者さんを一人でも多く診て、経営をよくするためには、「うつ病を患った患者さん」に向き合うよりも「うつ病」そのものを対象にしたほうが、効率がよく、経営的にもメリットがあります。街中には数多くの心療内科があります。ほとんどのクリニックが良心的な診療をしている一方で、患者さんの話をじっくり聞くよりも、薬を出して数をこなそう、という医療機関もあると聞いています。

 一方、近年は精神科や心療内科でも漢方薬を処方する医師が増えているようです。また、精神科や心療内科で治療を受けていた患者さんが、漢方専門のクリニックを受診するケースもあります。

 こころの不調で私の診療所に来院される患者さんの多くは、「長年飲んでいる西洋薬をやめたい。根本的に治したい」と訴えます。症状は落ち着いても西洋薬を飲み続けていると、治ったという感覚がないのかもしれません。副作用に悩まされている方もいます。

 私は漢方専門医であるため、精神科や心療内科の医師が漢方薬を処方する理由について、本当のところはわかりませんが、あえて推測させてもらうと、患者さんの西洋薬への抵抗感や西洋薬の副作用への不安を受けてだったり、西洋薬に比べて漢方薬のほうが徐々に効果が表れるものが多く、選択肢として有効だったりするのかもしれません(ただし、その処方の仕方は西洋医学的です)。

『メンタル漢方 体にやさしい心の治し方』(朝日新聞出版)

『メンタル漢方 体にやさしい心の治し方』(朝日新聞出版)から一部抜粋

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