
近年は精神科や心療内科でも漢方薬を処方する医師が増えているようです。また、精神科や心療内科で治療を受けていた患者さんが、漢方専門のクリニックを受診するケースもあります。30年超にわたり漢方診療をおこなう元慶應義塾大学教授・修琴堂大塚医院院長の渡辺賢治医師のもとに来院する患者さんの多くは、「長年飲んでいる西洋薬をやめたい。根本的に治したい」と訴えるそうです。
【写真】渡辺賢治医師の新刊「メンタル漢方 体にやさしい心の治し方」はこちら
メンタル不調に対して漢方という選択肢もあるということを、より多くの人に知ってもらいたいと、渡辺医師は著書『メンタル漢方 体にやさしい心の治し方』(朝日新聞出版)を発刊しました。同書から抜粋してお届けします。
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会社で上司や同僚からメンタル不調の症状を指摘されて、あるいは自分で症状を自覚して医療機関を受診しようとなった場合、どの診療科にかかりますか。多くの人は、精神科や心療内科を考えるのではないでしょうか。
実際、その通りで、精神科や心療内科は精神的な不調を専門的に診る診療科です。治療はうつ病なら抗うつ薬など、「向精神薬」の服用が中心となります。
うつ病でいうと、発症のメカニズムが解明されてきて、欧米では1980年代末から、日本では1999年から脳内の神経伝達物質「セロトニン」の働きを増強する「SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)」という薬が使用されるようになり、効果を発揮しています。その後「SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)」も登場し、抗うつ薬はさらに進歩しています。
うつ病の診断基準に当てはまれば、抗うつ薬を処方することが標準的な流れになっています。「うつ病の治療」では対象が「うつ病」になってしまいますが、うつ病に至る経緯、社会的要因は一人ひとり全く異なります。医療が対象とすべきは「うつ病を患った患者さん」であって、「うつ病」ではないはずです。個人個人異なる事情を注意深く聞くには、時間がかかります。