
ストレス社会と言われる現代、多くの人がこころの不調を抱えています。30年超にわたり漢方診療をおこなう元慶應義塾大学教授・修琴堂大塚医院院長の渡辺賢治医師は、最近メンタル不調の患者さんを診る機会が増えているといいます。なぜ人々は、こんなにもストレスを抱えるようになったのか、渡辺医師が考察します。
【写真】渡辺賢治医師の新刊「メンタル漢方 体にやさしい心の治し方」はこちら
メンタル不調に対して漢方という選択肢もあるということを、より多くの人に知ってもらいたいと、渡辺医師は著書『メンタル漢方 体にやさしい心の治し方』(朝日新聞出版)を発刊しました。同書から抜粋して前編に続き、後編をお届けします。
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暮らす場所による環境的な要因も大きい
暮らす場所による環境的な要因も大きいのではないでしょうか。
私は米国留学中にグランドキャニオンやイエローストーン国立公園など、国立公園によく行きました。雄大な自然に囲まれ、デスバレーでは地平線がどこまでも続き、車を走らせていても、周りに目印がないので、上っているのか下っているのかすらわからない不思議な感覚を覚えました。
東京に戻ると目の前にビルがあり、100m先すら見通すことができません。遠くの山々や地平線を眺めながら過ごしている人と窓を開けたら目の前にビルがあるような都会で過ごしている人とでは、ものの考え方が変わってくるのは当然です。
近視眼的な考えにとらわれてしまうのは、こうした地理的条件もあるのかもしれません。
さらに、スマホの普及が、画期的に生活を便利にした反面、スマホを見ないと不安になり、落ち着かず、移動中も休憩中もいつもスマホを見る癖がついてしまった人が多くいます。電車に乗って観察してみると、8、9割の人がスマホを見ているのではないでしょうか。中にはゲームをやっている人もいます。本を読む人はほとんどいなくなりました。車窓から景色を眺める、などという文学はもう生まれないのかもしれません。 さらに人混みでもスマホを見ている人がいて、ぶつからないか、こちらが気をつけなくてはならないことも多くあります。こうなると完全にスマホ依存症でしょうか。