
連日、その言動が世界のニュースを席巻している米国のトランプ大統領。中でもひときわ存在感を発揮しているのが、XやスペースXを所有するIT業界の起業家イーロン・マスク氏だ。トランプ政権と新たな権力となっているIT業界が結びつく足元で、IT業界の働き手たちや職場はこれまでにない変化を余儀なくされている。この10年、再燃していた若い世代の労組結成への意欲と新たな動きはどうなるのか。グーグルの働き手でつくるアルファベット・ワーカーズ・ユニオン(AWU)に、『なぜ今、労働組合なのか――働く場所を整えるために必要なこと』(朝日新書)の著者、藤崎麻里記者がオンラインで取材し、その本音に迫った。
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「2025年にトランプによる働き手への戦争が始まる。これに対抗しよう」。2024年11月の米大統領選の翌6日、グーグルの働き手たちでつくるAWUは、IT業界で働く働き手たちに向けて、こんな文言が並ぶプレスリリースを出した。
かつて若者を中心とし、技術を軸に自由闊達(かったつ)に新たな経済を作り出す象徴だったシリコンバレーだが、プレスリリースでは、そのシリコンバレーこそがトランプ政権復活の「共犯者」であるとし、「権力に貪欲に寡頭を求めるシリコンバレーの人々や(グーグルなど)ビッグテックの独占主義者たち」と闘う必要があり、「この瞬間のためにAWUは作られた」とまで断言しているのだ。
2021年に作られたAWUについて、同労組執行委員のスティーブン・マクマートリーさん(31)は「(社会運動の)力の結集をもっと恒久的にしたかった」と説明する。2010年代、米国では、金融業界に対するオキュパイ・ウォール・ストリート(「ウォール街占拠」)から始まり、ブラック・ライブズ・マター(「黒人の命は大切だ」)といった社会運動が盛りあがった。過去2回の米大統領選には民主社会主義を掲げるバーニー・サンダース上院議員がリベラルな若い層をひきつけ、SNSでも活動が広がっている。