それは、待ちに待ったタイミングのはずだった。だがこの時、自分でも意外な思いがじわじわと広がった。「これから子どもを持つ……果たして、私は本気なのか」この時、42歳。
「私は仕事が好きだし、仕事をしている自分も好き。仕事をする自分がアイデンティティになってる。そんな中で、今から子どもを持つことに躊躇してしまってる自分がいた。気づけば、産まない理由を探してたんです」
ある朝、目覚めてリビングに行き、コーヒーを飲みながら新聞を読んでいるパートナーを目にした時、素直に思った。私はこれ以上、何を望むのだろう。今が十分に幸せじゃないかと。「やっぱり子どもは産まないでいい」
悩んだ結果、パートナーと二人で一緒に過ごすので十分という結論に至った。田村さんはその後、凍結していた卵子を廃棄する手続きをしたのだった。
『-196℃の願い 卵子凍結を選んだ女性たち』は、朝日新聞出版公式note「さんぽ」で3月31日13時まで、全文無料公開中。

