姜尚中(カン・サンジュン)/東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史
姜尚中(カン・サンジュン)/東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史
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 政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。

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 前半の統一地方選で、とりわけ際立って投票率が低かったのが道府県の議会議員選挙でした。道府県知事選挙では、維新の躍進にスポットが当てられましたが、平均投票率は46%台で5割を切っています。維新の圧倒的な勝利といっても、有権者の半数の意思が確かめられない選挙結果であることを忘れてはなりません。

『アメリカのデモクラシー』の著書で有名なフランス人の歴史家A・トクヴィルは、アメリカの民主主義の強さはタウンミーティングをはじめとする草の根の市民参加にあり、最も身近な問題に関する民主主義的な関心の深さ、広さがアメリカンデモクラシーを支えていると指摘しました。自分の最も身近な政治の問題に関心がない人は、恐らく国政や国と国との関係にはなおさら関心を持てないでしょう。現在、安全保障や防衛、憲法といった戦後日本の「国のかたち」のあり方を問う問題に直面していますが、今回の選挙で日本の民主主義の深刻さがより露わになったと思います。

 不安の時代、後先がよくわからない時代、人は現状にしがみつこうとする半面、現状の保守の枠内で新しいことをやってくれそうなリーダーや政党に靡(なび)くものなのでしょうか。その受け皿になったのが、劇場型の政治演出に長けた都市型ポピュリズム政党という面を持つ維新だったわけですが、果たして維新が地方にまでそのウィングを広げられるのかどうか注目したいと思います。また、松井一郎前代表が一線を退き、橋下徹氏とコンビを組んでメディアで発信し、維新の最大の「応援団」になるのかも目が離せないでしょう。

 今回の選挙戦で特徴的なのは、維新のIRカジノ構想のように、すぐにカネと結びつくイベント型開発モデルが目立つことです。札幌市のオリンピック招致の公約にも言えることですが、地方の経済的な逼迫(ひっぱく)が深刻な分、目の前にある利益に飛びついてしまう傾向が顕在化しました。

 維新の躍進を見ていると、将来の維新の与党化も含め、これまでの与野党という分け方とは違うものが出てくる可能性がありそうです。これについては後半の地方選挙の結果と、補欠選挙を見ていく中で少し見えてくるでしょう。

◎姜尚中(カン・サンジュン)/1950年本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍

AERA 2023年4月24日号