
病院で処方される薬を買うには、すべて処方箋が必要と思っている人は少なくないだろう。だが、実は医療用医薬品の中には処方箋が不要のものがあり、一般販売している薬局がある。「零売(れいばい)薬局」と呼ばれている。ところが最近、長年黙認されてきたこの「零売」に法規制をかける動きが進み、薬局側が反発し裁判沙汰になった。一体何が起きているのか。
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処方箋なしで病院の薬が買える
東京の、とある繁華街から少し外れた一画にある薬局。看板には「処方箋なしで病院の薬が購入できる」旨の文句が書かれている。
店から出てきた男性(46)に話を聞くと、花粉症の飲み薬と点鼻薬、風邪をひいたときに飲む解熱鎮痛剤を購入したという。医療機関でよく処方される、おなじみの薬だ。
「昔は、診察を受けてもらっていた薬です。仕事が忙しいので、混雑している病院にわざわざ行って時間をとられたくないですし、一度は病院に行っても、また行く余裕がなくて薬が切れちゃうこともある。ドラッグストアで類似品を買うより安いですし、欲しい時に買えるから助かっています」(男性)
ネットで購入できないか検索していたところ、たまたまこの薬局を見つけたそうで、利用して4年ほどになるという。
医療用医薬品は、患者が医療機関を受診し、医師が出す処方箋に基づいての販売を前提として承認されている。
だが、約2万品目ある医療用医薬品のうち処方箋が絶対に必要な「処方箋医薬品」は1万3千品目。その他の7千品目は、処方箋に基づく販売は「原則」とされている(品目数は2020年7月時点。厚生労働省の資料から)。
店舗数は全国で100ほど
厚労省は、処方箋医薬品以外の医療用医薬品については、大災害などの「やむを得ない場合」に限り、処方箋なしで薬局が販売できるとの通知を出していた。
「必要最小限の量に限ることや、病院の受診を勧めることなどが前提でした」(厚労省の担当者)
この「やむを得ない場合」という明確な線引きのない、いわば「グレーゾーン」の中で、通常は病院で処方してもらう薬を販売しているのが「零売薬局」と呼ばれる薬局だ。
薬剤師の立ち会いのもと、風邪薬や解熱鎮痛剤、花粉症の薬や医療用ビタミン剤など多様な薬を扱っている。店舗数は全国で100ほどにとどまると見られており、認知度は決して高くない。
規制強化の流れ
これまで大きな問題が発生したこともないが、近年、規制強化の流れが強まり、今国会では零売を原則禁止することを盛り込んだ医薬品医療機器等法(薬機法)改正に向けた動きが進んでいる。
「『やむを得ない場合』について、要件をより具体化する方向です」(同担当者)
こうした国の規制の動きに対し、零売薬局側もだまってはいなかった。この1月、零売を行う3社が、「通知による販売規制は違憲」などとして国を相手取り訴訟を起こした。法改正の動きをけん制する意図を込めた、珍しい訴訟だ。
零売薬局の関係者によると、零売という言葉は明治時代には存在し、当時は薬局間での薬の売買の方法だったという。なぜ、事実上黙認されてきた零売が今になって目の敵にされているのか。