
「あなたたちはサンドイッチの中身なのよ!」
「私と同期の愛華みれと、1つ上の宝樹芽里さんの3人が、同じ服を着て後ろのほうで踊る場面があったんですけど、『なんでみんな同じ格好してるの。1人は袖をまくるとか、襟を開けるとか、個性を出しなさい』と教えてくださって『なるほど』と。そしたら次のときにはやりすぎちゃって、真ん中で踊っている方よりも派手になっちゃいました。でもそれで、与えられたものからでも工夫して、個性を出していくことの大切さを学びました」
真琴さんは、宝塚歌劇団71期生。1つ上の70期には宝樹さんがいて、1つ下の72期には、元月組トップスターの紫吹淳さん、香寿たつきさんがいた。優秀な上級生、下級生に挟まれ、真琴さんと愛華さんは当時、成績が悪い劣等生だったという。先生から「あなたたちはサンドイッチの中身なのよ! しっかりしなさい!」と怒られたこともある。
「叱咤激励だと思うんですけど、心の中では『サンドイッチは中身がおいしいはず…』と思っていました」
だが、やはり長い下積み時代はつらいことも多く、当時のことを「暗黒時代」だったと語る真琴さん。男役のあこがれである燕尾服を着て数十人で群舞をする場面で、後輩は選ばれて真琴さんは出られない、ということもあった。
「次がフィナーレナンバーという場面で、後輩が舞台に出ていって、自分は舞台袖で見ていたときのことは今でも覚えています。どんどんみんなが活躍していく中で、私は出られない公演もあって、涙が出そうなぐらい落ち込むこともありました。でも『このままじゃダメだ』と思って、自分が出ていない場面の振り付けも見学して、一人でこっそり踊ったりしていました。それを上級生の方が見ていてくださって、プロデューサーに『あの子頑張ってますよ』と伝えてくださったんです」
真琴さんはクールで、太陽と月に例えるなら月のタイプ。だが下級生の頃は笑顔が似合う王子様キャラのほうが注目されがちだ。そんな事情もあり、なかなかスポットライトが当たらなかったが、真琴さんにも転機が訪れる。86年、「真紅なる海に祈りを」の新人公演で真矢みきさんとともに演じたときだった。真矢さんは新人公演の主役で忙しい中、一緒に残って真琴さんの練習を見てくれた。