
連日報道されるトランプとプーチンの動向。国際ジャーナリストの春名幹男さんの著書『世界を変えたスパイたち ソ連崩壊とプーチン報復の真相』(朝日新書)の中では、プーチンとトランプの謀略の数々が語られている。トランプを手玉に取り、プーチンは何を画策しているのか、その恐るべき陰謀を本書から一部を抜粋・再編集して解説する。
* * *
トランプに期待するプーチン
トランプはスキャンダルで「脅された」か
米国では2016年大統領選挙中に、トランプが滞在したホテルで、FSBの仕掛けにはまって女性とのみだらな行為にふけったとの情報が伝えられた。この情報は、当初は共和党のトランプの対立候補、後にヒラリー陣営からの依頼で米調査会社「フュージョンGPS」を通じて、英国の対外情報機関MI6のクリストファー・スティール元ロシア部長がまとめたいわゆる「トランプ文書」の中で指摘されていて、ニュースサイト「バズフィード」によって公開された。
この情報はスティールからFBIにも提供され、トランプはプーチンに脅されているといった見方が情報機関にも広がった。その後、スティールの情報源が、伝聞情報で証拠があるわけではないと証言して以後、情報の信憑性が疑われている。
誰も知らないトランプ=プーチン会話の中身
トランプは2017年の大統領就任から2年間、世界の5カ所でプーチン大統領と非公開の米露首脳会談を行ったことが公式発表で明らかにされた。だが問題がある。両首脳のやりとりの内容は米政府内でも一切明らかにされていないのである。このため外交安保政策を担当する米政府当局者でも、CIAや世界最大の盗聴機関、国家安全保障局(NSA)などの情報機関に問い合わせ、同時に会談後のロシア大統領府の対応に関する情報を参考に会話内容を類推するという奇妙な状態が続いている。
実は、トランプとプーチンの会話は面と向かった会談が5回、公開された電話会談は第1期の大統領就任から2019年1月初めまでで9回とされている。2024年10月に発刊された同紙のボブ・ウッドワード記者の新著『戦争(War)』によると、トランプが2020年大統領選に落選して以後も、2人は電話で7回程度の会話を交わしており、2016年大統領選挙に当選以後の会話と会議の総回数は25回を超えているとみられる。