トランプは第1期政権の2018年以降、ホワイトハウス内で数回、米国の「NATOからの離脱」を口にしたと伝えられる。最初にそれを言い出した時は、本気かどうか分からなかったが、何度も言及するので高官らは不安を募らせたという。大統領補佐官(国家安全保障担当)を務めたジョン・ボルトンらが証言している。
米国がNATOから離脱すれば、NATO体制は崩壊する。米国という核超大国あってのNATOだ。米国が離脱すれば、米国が西側諸国に対する支配的地位を維持して世界平和を保つという戦後の「パックス・アメリカーナ」も終焉の時を迎える。プーチンは米国の支配体制を崩壊させようとしていると「エスタブリッシュメント」の米政府高官らは警戒している。しかし、トランプは「NATOからの離脱」と口にしただけで、ジョン・ケリー首席補佐官、ボルトン、マクマスター両補佐官(国家安全保障問題担当)らの猛反対に遭い、引き下がった。
トランプはこれらエリート官僚を「ディープステート」と呼んでいる。意訳すれば「地下政府」とも言える。「秘密結社」と誤解させて、陰謀論につなぐ意図があるかもしれない。トランプは今なおこの言葉を使い、2025年1月からの第2期政権では、これらエリートを一掃して、新たに5000人の同志を入れるとも発言していた。
対ウクライナ軍事援助を一時執行停止
米国からウクライナへの軍事援助を、トランプが止めようとしたこともあった。
2019年7月、トランプは約4億ドルの対ウクライナ軍事援助の執行差し止めを国務・国防両省に指示した。その1週間後、トランプはウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領に電話し、翌年の大統領選挙に出馬するライバルのバイデン前副大統領の次男の不正事件などを捜査すれば、軍事援助を執行するという趣旨の発言をした。
この事実を内部通報したのはCIA要員だった。だがトランプの側近の一人スティーブン・ミラー補佐官は「ディープステート工作員」の仕業と非難。トランプ自身は「彼らは自分を狙う反逆者」と罵った。
議会で決めた援助を大統領が差し止めるのは違法であり、野党民主党が厳しくこの問題を追及したため、同年9月11日にトランプは「執行」を関係省庁に連絡した。この問題はトランプ大統領弾劾の動きにまで発展した。
ウクライナへの軍事援助は、共和党の一部がバイデン政権の援助継続に反対し、大きい問題になったが、トランプ第1期政権では曲がりなりにも継続してきたのだ。