下山 進さん(しもやま・すすむ)/ノンフィクション作家。『勝負の分かれ目』、『2050年のメディア』は技術革新とメディアの関係を描く名著として名高い。聖心女子大などで教鞭をとる。新刊は『持続可能なメディア』(撮影/写真映像部・和仁貢介)
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 ジャニーズ問題、フジテレビ問題と、メディアへの不信は高まる一方だ。何がメディアをダメにしたのか、生き残る道筋は何か。『持続可能なメディア』を上梓した下山進氏と琉球新報の南彰氏が徹底討論した。AERA 2025年3月17日号より。

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下山:お久しぶりです。

南:2019年に新聞労連で講演をしていただいて以来ですね。

下山:私が南さんを信頼することになった理由もその時の体験によります。ボツになりかけた講演原稿を救ってくれたのが南さんでした。

 当時新聞労連は、春闘で、経営側にヤフーへのニュース提供の料率を値上げするよう交渉せよ、ということを要求事項にいれようとしていました。

 私は講演で「愚かなことをするな」と言ったわけです。ヤフーが支払う提供料は確かに安いが、これが1PVあたり、0.025円が0.21円になろうと、紙の部数が激減するなか、ほとんど影響はない。むしろ現場の記者までもが、プラットフォーマーの磁場にとらわれてしまう。危機を脱する道は、有料電子版を、いかに伸ばすかということにしかない、ということを話したのです。

 この講演は労連の機関紙に掲載される予定でしたが、労連側がまとめた原稿では、そのことがすっぽり抜け落ちていた。で、著者校で、講演で話したことを中心に書き換えたらば「原稿は掲載できません」と言われてしまった。

 そこに途中から介入してくれて、「『考え方が違うから載せない』という対応はしません。原稿はそのまま掲載します」と言ってくれたのが、労連の委員長だった南さんでした。

南:私が朝日新聞社にいた2014年に、池上彰さんのコラム「新聞ななめ読み」の原稿が当時の社長の意向で掲載されなかった件がありましたが、私は「掲載すべきだ」と署名集めをして、編集局長らに提出した中心者の一人でしたから。

下山:なるほど。

南:あのときの新聞労連の下山さんの講演は、それまで漠然と感じていたことをはっきりと言語化してくれた衝撃がありました。

下山:ありがとうございます。

南:だから私が23年10月に朝日新聞を退社する際、社長らに送った「挨拶文」の冒頭に、あのときの下山さんの言葉「長期的にみると、全国紙で残るのは日経と一般紙1紙」「その一般紙は読売」という言葉を盛り込んだんです。

下山:南さんが朝日を辞めて琉球新報に移られた後に上梓した『絶望からの新聞論』でも、「読売一強」の危険性をおっしゃっています。

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