AERA 2025年3月10日号より

 SBI証券に「結局、投資信託を売りたいから分散投資って便利な言葉を使うんですよね?」と聞くと、面白い答えが。

「金は物々交換や塩を介した手段に代わり、人々が財を交換する手段として機能してきました。現代では株や債券が事実上の紙切れになっても、ハイパーインフレで通貨が実質減価しても、世界中で取引される金なら一定のモノと交換できる。その意味で、『非常時に資産の全滅を回避するため、一部を金で持っておく』のが本来の分散投資ではないかと考えます。大昔の王族は、天変地異や革命、他国による占領などにより一文無しとなるリスクと隣り合わせの中で金を保有していたわけです」

 王族の話になりびっくりしたが、「リスク分散のために〜」と軽やかに言われるより腑に落ちた。持っている資産の全滅を回避。しかも都合のいいことに、長期で見ると金の成績は優秀。

金投信コスト最安は

 さて、金に投資しようと思った人は何を選べばいいか。金投資といえば純金積み立てが有名だ。最大手は田中貴金属で月3千円から。貯めた金をジュエリーなどと等価交換もできる。SBI証券、楽天証券、マネックス証券などでも純金積み立ては取り扱っており、月1千円から。

 手数料面で見ると純金積み立てより投資信託のほうが得だ。新NISA成長投資枠でも買える主な8本をまとめた=上の表。一番人気は「三菱UFJ 純金ファンド」純資産総額2987億円。コスト最安は「SBI・iシェアーズ・ゴールドファンド」信託報酬0.1838%。

 金の投資信託には大抵「為替ヘッジあり」と「為替ヘッジなし」の2種類がある。為替ヘッジありだと、為替変動の影響を受けにくい。為替ヘッジなしだと、金価格の上下に加え円安・円高の影響を受ける。表内に参考として日興「ゴールド・ファンド」の為替ヘッジありも載せたが、為替ヘッジありの1年リターンは18.69%(24年12月末/以下同)、為替ヘッジなしは40.12%。利益に20%以上も差がついたが、差の理由は為替だけではない。

「為替ヘッジありのタイプは、ヘッジコストが信託報酬とは別に基準価額から引かれています。直近の米ドル/円のヘッジコストは1カ月で4.12%。20年平均を調べると2.04%でした」

 4%台……高い(24年8月まで5%台だった)。この水準なら為替ヘッジなしを選びたくなる。ただ「円高予想」の人、米ドル建て外貨預金などを多く持っている人は「あえての為替ヘッジあり」でも否定はしない。

 なお、手元資金が心許ない人は無理して金に投資しなくてもいい。全世界株式やS&P500などの定番の投資信託で積み立てを続け、「増やす」より「減らさない」ことを重視したくなってきたら考える。そのときの気持ちはきっと「王族」だ。

(経済ジャーナリスト・向井翔太、編集部・中島晶子)

AERA 2025年3月10日号

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