
増やすより減らさない
上級者は特に納得すると思うが、投資において「なくならない」ことは絶大な安心感につながる。富裕層に金ホルダーが多いのも、資産を増やすより減らさない(守りたい)ことに重きを置くようになるからだろう。
「金は増産も容易ではなく、限りあるモノですから、金の『価値そのもの』は株や債券に比べ安定しています」
価格変動に関しても、過去20年の各年リターンを見ると下落した年は4回だけ。08年のリーマン・ショックの際もS&P500が円建てで▲48.9%、金は▲15.4%。ドル建てだとS&P500が▲37.0%、金はプラス4.3%。13年、株式全般が絶好調だった年は金が不調で、円建ての金が▲11.8%、ドル建ての金が▲27.3%。金価格を20年通して見ると、下がっても半減はない。円建てで最悪2割弱、ドル建てで最悪3割弱のマイナスだった。
先ほどから「円建て」「ドル建て」と区別しているが、金価格は世界ではドル建てが標準だ。25年1月平均で1トロイオンス=約31グラム当たり2709ドル。ちなみに日本円で1グラム当たり1万3676円。
「金価格は、一定量の金とドルの交換レートと解釈できます。ドルの価値が下がれば金価格は上がり、ドルの価値が上がれば金価格は下がる方向。つまり金は通貨に対する強弱を表すのです。インフレはお金(ドルや円)の価値が下がること=金の価値を引き上げる要素になります。金がインフレに強いといわれるのはそういうことです」
有事の金という言葉も有名。戦争や天変地異などが起こると金は上がることが多い。
「株もダメ、債券もダメとなると消去法的に『安全な金』に資金が向かいます。直近ではコロナの際、世界で株式全般が急落する中、金価格は安定していました。ロシアのウクライナ侵攻時は一時的にツレ安しましたが、その後の金価格はインフレ懸念も高まり上昇しました」
金融市場の混乱時に金が上がる様子を調べると、その傾向が最も顕著に出ていたのは1973〜74年の第1次石油ショック時。世界の株式は▲31.7%のところ金は56%上昇(いずれもドル建て)だった。
金はS&P500やNASDAQ100など、年により好不調がある資産に比べて目覚ましくは儲からない。よって「金に全振りしましょう」とはいえない。投資の教科書や金融機関のセールストークにも「分散投資の一環として金」というのがあるが、その解説は「株が下がっているときに金が上がると資産全体の下落を少しでも抑えられる/精神的にも落ち着く」。