小袋成彬(おぶくろ・なりあき)/1991年4月30日生まれ。埼玉県さいたま市出身のミュージシャン、音楽プロデューサー(撮影/今村拓馬)
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 渡英した2019年から2024年までの日々を記録したエッセイ集『消息』を発売した音楽家・小袋成彬へのロングインタビュー後編をお届けする(前編はこちら)。

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――「さいたま」と題されたエッセイは、小袋さんの故郷である埼玉がテーマ。イギリスに移住したことで“さいたま”のポテンシャルに気付いたという内容です。

 ずっと埼玉にいたら気づかなかったかもしれないですね。地元のポテンシャルを発見できたのは、自分のルーツを探るという意味でもよかったと思います。俺もそうでしたけど、埼玉の人たちって「私達には何もない」という感じなんですよ。“(さいたま)新都心”って言ってるのに(笑)。

――どこか自虐的というか。

 でも、そんなこと全然ないんですよ。浦和レッズもあるし、マンガをテーマにした公立美術館(さいたま市立漫画会館)も埼玉が最初で。本当はいろいろ魅力があるのに、なぜか「私たちにはプレゼンスがない」と思ってるんですよね。自分たちでリフトアップしないとダメじゃない?と思うし、埼玉で生まれたアーティストとしてできることはやっていきたいなと。自分の人生と生まれ育った街を照らし合わせて考えることもありますからね。

小袋成彬さんは1991年4月30日生まれ、埼玉県さいたま市出身(撮影/今村拓馬)

――日本語に対する意識も変わってきたのでは? 

 そうですね。英語が話せるようになったことで、言葉の定義に敏感になって。日本語の辞典、英英辞典のアプリを入れて、しょっちゅう調べるようになりました。

――ピンク・フロイド(70年代のプログレッシブ・ロックを代表する英国のバンド)の名曲「Money」の歌詞に衝撃を受けたというエッセイ「Money」も印象的でした。

「Money」はイギリス英語で歌われているんですけど、歌詞カードを見ながら聴いたわけではなくて、言葉が直接脳内に入ってきた感覚があったんですよね。「Money,it’s a gas」(お金、それはガスだ)もそうですけど、この時代(「Money」のリリースは1973年)にお金という概念の本質を歌ってるわけじゃないですか。50年以上経って、「まだそんなことにも気づいてないのか」「人類はなぜ学ばないんだ」と言われているような気がしてし、自分たちの愚かさにもショックを受けて。「このことは書かないとな」と思いました。

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