「親の所得に関わらず、子どもの支援をしっかりと行っていく」と語る森澤恭子区長=昨年8月、米倉昭仁撮影

「人間が自分らしく暮らしていくうえで、不可欠な生活の基礎となる行政サービスを所得制限なく全世代に提供する」という視点で、米の無料配布や学校制服無償化などに向けた予算を重点的に計上しているともいう。

「義務教育は本来、所得の多寡にかかわらず、だれもが等しく、無償で受けられるべきもので、国においてなされるべきであると考えております。品川区が先駆的に所得制限によることなく学校制服の無償化を行うことで、国でも議論がされることが重要だと考えております」(品川区の文書回答)

 低所得世帯に対しては、現在「新入学学用品費」が支給されているが、「今回の制服無償化によって、廃止もしくは減額されるか」と尋ねたところ、「今後の検討」となると回答した。

制服は隠れ教育費の筆頭だが

品川区は来年度から区立中学校の制服を無償化する。写真は品川区役所=米倉昭仁撮影

 制服の無償化を、識者はどう受け止めているのだろうか。

 千葉工業大学工学部教育センターの福嶋尚子准教授は、「教育的意義がどれほどあるか疑問」と、厳しい目を向ける。

 福嶋准教授は、学校にまつわる保護者負担、「隠れ教育費」について問題提起してきた。制服は「隠れ教育費」の筆頭でもある。であれば、「無償化は合理的」とも思えるが、品川区の方針が報道されてから、福嶋准教授は違和感を覚えてきたという。

「制服はそもそも必要なのかという本質的な議論なしに、なぜ一足飛びに予算を割いて無償化するのか」(福嶋准教授、以下同)

 かつて学校制服は、保護者負担軽減のアイテムだった。質素で丈夫、安価な制服を着用して学校に通うことで、服装にかかる費用を抑えられたからだ。

なぜいま「制服ありき」なのか

 だが、時代は変わった。

「昔は『安いもの』というイメージがあった制服ですが、今は逆で、大人のスーツよりも高い。負担軽減を考えるうえでも、多様性という意味でも、制服はもうないほうがいいはずです」

 全員が同じ服を着ることに違和感を覚える人や、「性別ごとの制服が耐えられない」という性的少数者(LGBT)もいる。

 そんななかでの、「制服無償化」だ。福嶋准教授は、「学校に通うには制服が必要」という固定観念を助長する動きではないかと懸念する。実際、中高生や保護者を対象に、制服についてアンケートを実施すると、今も「制服は必要」という声が多数派を占めるという。

「少数派を無視していい、制服が必要か、議論をしなくていいということにはならないと思います」

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)

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