叡王戦の本戦トーナメント準決勝で藤井聡太名人・竜王(右)に勝った糸谷哲郎八段=2025年2月25日、大阪府高槻市の関西将棋会館
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 注目対局や将棋界の動向について紹介する「今週の一局 ニュースな将棋」。専門的な視点から解説します。AERA2025年3月10日号より。

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 2025年2月25日、大阪・関西将棋会館において、第10期叡王戦本戦トーナメント準決勝藤井聡太七冠(22)・糸谷哲郎八段(36)戦がおこなわれた。結果は100手で糸谷が勝利。挑戦者決定戦に進み、伊藤匠叡王(22)への挑戦権獲得まであと1勝とした。

「しっかりと準備をして、自分の将棋を指せればと思います」

 糸谷は9回目の対局で、初めて藤井に勝った。その点について問われた糸谷は、やや苦笑気味にこう語った。

「とりあえず、1勝できてよかったです」

 糸谷は現代トップクラスの棋士の一人だ。2014年、26歳で大阪大学大学院(哲学専攻)に在籍中だった糸谷は、初タイトルの竜王位を獲得し、八段に昇段した。現棋界屈指の早見え・早指しタイプで、定跡形にはとらわれず、一局のうちには必ずどこかで、観戦者を沸かせる、才能あふれる手を放つ。文章を書けば上手く、話をすれば面白い。人情家でファンサービスも手厚く、人気は常に高い。

 そんな糸谷が、まったく勝てなかったのが藤井だった。糸谷は大きな一番で、現代の最強者を相手にやや不利な後手番を持ちながら、会心の指し回しで1勝を返した。

 藤井は今年度、伊藤に叡王を明け渡し、八冠独占は崩れた。依然七冠は堅持し最強の存在だが、本局の敗戦によって、来年度中の八冠復帰の可能性は消えた。藤井は局後、対局の内容に関しては残念そうだった。しかし自身の実績や記録に関してはこれまで通り、関心のない様子だった。

「本局は全体的に苦しい将棋だったので、結果もやむを得ないかなというふうには思っています。今期は敗退ということにはなってしまったんですけれど。また、もっと実力を高めて来期のトーナメントに臨めるように取り組んでいきたいと思います」(ライター・松本博文)

AERA 2025年3月10日号

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