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トランプ米大統領が多様性・公平性・包摂性(DEI)政策の見直しを進めている。企業や個人は「DEI」について、どのように向き合えばいいのか。谷口真美・早大商学学術院教授が語る。AERA 2025年3月3日号より。
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米国では、大統領令の署名を受けて「反DEI」という言葉が独り歩きしていますが、注意したいのはトランプ米大統領が「違法なDEIの廃止」を訴えていることです。「違法なDEI」のターゲットは、行き過ぎた「クオータ(少数派優遇施策の一つ)」です。これが能力主義に反し結果平等を促したとされています。
多様性には二つのタイプがあります。性別や人種といった自分の意思では変えられない属性である「表層の多様性」。そして、一人ひとりが持つ経験や価値観、スキルといった外観からは見えない「深層の多様性」です。米国で争われているのは、「表層の多様性」についての議論です。表層属性によって社会的マイノリティーとされてきた人たちが採用や昇進のプールに入れないという問題を解決するためのアクセルとして、「女性役員3割」といった目標を掲げるのは、一定の意義があります。これまで人材プールの対象として見ていなかった人に意識を向けることで、その人の深層属性まで見ようという変化が起きたという研究もあります。
差別の解消は憲法で保障されています。DEIの考え方自体が違法なのではありません。DEIのなかでもEquityの実践方法の一部が行き過ぎだと批判されているのです。企業における多様性の取り組みは、経営合理に基づく経営判断です。そもそも、多様性にはプラスとマイナスの面があり、表層ばかり意識するとアイデンティティー同士の不毛な対立が発生します。多様性は「魔法の杖」ではありません。ところが、現実には自社にとってどのような経営合理性があるかを見極めず、単に流行に乗って、D&IやDEIなどのスローガンをうわべだけ追っている企業も少なくありません。知と経験の多様性が価値創造につながるプラスの面を育んでいくという本来の目的を忘れてはいけないと思います。
考えようによっては、今回の動きは一つのチャンスであるとも言えます。自社にとって多様性とは、どんな価値が創出できるのかを改めて考え直し、再定義することで、確信をもってD&IあるいはDEIに取り組むのです。
これは個人にも言えることです。SNSを通じてソーシャルアクティビズムに参加してきたZ世代の若者たちが、DEIの活動に参画する傾向があるようです。しかし、なかにはただ「イケている」からという軽いノリで賛同する人もいるでしょう。今回の揺り戻しによって流行から距離をおき、改めて自分の価値観と向き合うチャンスだと思います。
(構成/編集部・福井しほ)
※AERA 2025年3月3日号
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