オリオールズの帽子を手にする菅野
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 今年4人の日本人投手がNPBから米国に渡った。最も注目を集めているのはドジャースに入団した佐々木朗希だが、最も日本で実績を積み上げてきたのは、昨年4度目の最多勝に輝いた35歳右腕、巨人から海外FA権を行使してオリオールズに移籍した菅野智之だ。

【写真】ヤンキース時代の黒田博樹

 最多勝、最優秀防御率をそれぞれ4度獲得し、沢村賞を2度受賞するなど実績は申し分ない。2023年は4勝に終わり「限界説」がささやかれたが、昨年は15勝3敗、防御率1.67と完全復活。巨人の4年ぶりのリーグ優勝に大きく貢献した。対戦したセ・リーグの打者は「ある変化」を指摘する。

「フォークが厄介でしたね。菅野さんの変化球はスライダー、カットボールなど横の変化で勝負する印象だったのですが、昨年はフォークの精度が上がって縦の変化をケアしなければいけなくなった。ツーシーム、カーブも有効に使っていたし、配球の組み立てが多彩になりました。直球は前の年より球速が上がった印象はないんですけど、差し込まれることが多かった」

 菅野の昨季の平均球速は150キロに満たない。メジャーの先発投手では平均以下の数字だが、直球の速さで先発投手の価値が決まるわけではない。実際、昨年からカブスで活躍する今永昇太は直球の平均球速が147キロだったが、打者の手元でホップするような軌道の速球とスライダー、チェンジアップのコンビネーションで、173回1/3を投げて174奪三振を記録。15勝3敗、防御率2.91の好成績で大きなインパクトを与えた。

35歳過ぎで渡米した先発投手の2ケタ勝利はない

 ただ、菅野の年齢から活躍を疑問視する声はある。これまでも35歳を過ぎてから海を渡った日本人投手はいるが、ドジャースなどで中継ぎ・抑えとして活躍し、通算21勝84セーブをあげた斎藤隆氏の例はあるものの、先発型ではメジャーで2けた勝利をあげられた投手はいない。

 ただし、35歳前に渡米し、35歳を過ぎてもメジャーで活躍し続けた投手はいる。今なら38歳のダルビッシュ有(パドレス)、かつては黒田博樹氏(現広島球団アドバイザー)がその例だ。メジャーの取材経験があるスポーツ紙デスクは、「菅野にとって参考になる投球スタイルは黒田さんでしょう」と言う。

「黒田さんは広島でプレーしていた時は150キロを超えるシュートが特徴の投手でしたが、メジャーに挑戦した後はツーシーム、スライダー、フォークを多投して、シュートを右打者のひざ元に沈むシンカーにアレンジしていた。菅野も器用な投手で色々な変化球を操れる。NPBとメジャーは球の大きさ、重さ、滑りやすさ、縫い目の高さが違います。ボールの違いに苦しむ投手がいますが、その点も問題ないでしょう」

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菅野の活躍のカギを握るオリオールズの捕手は…