20世紀を代表するアイルランドの作家ジェイムズ・ジョイス。彼の生涯と文学に対する姿勢を、アイルランド政府及び金融機関に勤めた著者が綴った。
『ダブリンの市民』『若い芸術家の肖像』『ユリシーズ』……。ジョイスは故郷ダブリンを舞台に、貧しさの中に生きる平凡な市民の姿を描き続けたが、作品が祖国で出版・販売されることはなかった。また、カトリック教会の組織を〈アイルランドの敵〉と批判し、司祭の前で結婚を誓うことを厭い、妻のノーラとは27年もの間正式に結婚せずにいた。だが、極貧生活を送る彼を、アイルランド人作家で当時第一人者とされたイェイツや、パリにシェイクスピア・アンド・カンパニー書店を開いたシルビア・ビーチなど多くの友人が支援した。そんなジョイスの魅力がつまる。

週刊朝日 2016年10月28日号