ドローンが撮影した膨大な画像からピラミッドを3DCGに変換。これまで見えなかった空間が見えてきた。沈没船の調査などでも使われる技術だ (c)WORLD SCAN PROJECT
この記事の写真をすべて見る

 現在開催中の「ブルックリン博物館所蔵 特別展 古代エジプト」。3千年前の王族たちや、巨大なピラミッドを作った人たちの暮らしを知ることができる。案内人の河江肖剰さんに聞いた。AERA 2025年2月24日号より。

【写真】注目を集めているエジプト考古学者・河江肖剰さんはこちら

*  *  *

 最近よく聞く言葉に、「博物館浴」というのがある。博物館や美術館などに出かけると、それだけで何ともいえない「いい気分」を感じることがあるだろう。実はあれ、気分の問題だけではないそうで。実際に血圧が安定するなど、身体的効果があることがわかってきた。海外では、患者さんによっては処方箋に「博物館」と書かれていて、薬の代わりにチケットを“処方”する病院もあるという。

 博物館に充満しているそんな「いい気分」のシャワーを実感できるのが、森アーツセンターギャラリーで開かれている「ブルックリン博物館所蔵 特別展古代エジプト」だ。

働き方は案外ホワイト

 日本でも、数え切れないほどの古代エジプト美術を紹介する展覧会が開催されてきた。ただし、3千年前の王族たちや、あの巨大なピラミッドを作った人たちが、毎日どんな暮らしをして、何を食べ、何を着て、どんな子育てをしていたのかなど、知られているようで知られていないことも意外に多い。

 今回の展覧会で案内人を務めるのは、今注目を集めているエジプト考古学者の河江肖剰さん。古代エジプトに興味を持ったのは、「子どものころピラミッドを紹介したテレビ番組で古代エジプトにはまだわからないことがたくさんあることを知ってワクワクしたのがきっかけだった」(河江さん)そうだ。

 ピラミッドというと砂漠のまん中にポツンとあるイメージだが、実は建設時の労働者たちが暮らしていた古代都市が、隣接していることもわかってきた。河江さんは十数年間にわたってカイロに住みながら、ピラミッド・タウンと呼ばれる、そうした労働者や貴族、王族も住んでいた町の発掘を実施。リアルな暮らしをひもといたりしながら、古代エジプトについての研究を進めてきた。

エジプト考古学者:河江肖剰さん(かわえ・ゆきのり)/名古屋大学デジタル人文社会科学研究推進センター教授。エジプトのピラミッドの研究調査を行う(写真:張 溢文)
次のページ
庶民はもっぱらビール