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石破茂首相がトランプ米大統領との首脳会談を「無事」切り抜けた。
「石破首相がトランプ大統領に気に入られるのは無理」「石破話法はトランプ氏が最も嫌うタイプだ」「トランプ大統領の無理難題にどう対応するのか」などとマスコミは書き立て、「安倍晋三元首相ならうまくやれたはずだが、石破では全く期待できない」「首脳会談に失敗すれば石破政権の終焉に近づく」と自民党内の右翼層は石破首相の失敗を待ち望んだ。
仮に、会談でトランプ大統領から過激な追加関税などで脅され株価暴落などという事態になれば、「待ってました!」とばかりに、「やっぱりダメだった」「恐れていたことが起きた」と批判の嵐になっていただろう。
では、実際はどうだったのか。
彼らが期待したことは何も起こらなかった。
それどころか、トランプ大統領が石破首相を持ち上げる場面が見られるなど、むしろ、石破首相は、当初の予想を大きく裏切り、トランプ大統領との間で、信頼関係を築く第一歩を踏み出すことに成功したようにさえ見えた。
何から何まで「予想外」の出来だ。
今や、「なぜ、石破首相はこんなにうまくトランプ大統領に取り入ることができたのか」「実は、こんな裏話が……」などと面白おかしく報じられている。
しかし、今回の結果は、むしろ予想どおりだったというのが私の見方だ。
ただし、「石破首相が素晴らしくうまくやった」という意味ではない。
そもそも、今回の首脳会談の最大の目的は、表向きには「トランプ氏と信頼関係を築く」ことだとされたが、ほとんどの人は、本音ではそんなことは無理だと思っていた。「トランプ氏と決裂しない」「無理難題をふっかけられても、今後の交渉の余地を残す」というところでとどまれば十分だと考えていた。
もちろん、それだけの結果であれば、国内で評価されることはなかっただろうが、公平に見ても、その程度の結果であれば、カナダやメキシコなどが直面している状況やEUが確実に陥ると予想される苦境と比較しても、決して悪い結果ではないはずだ。
マスコミなどが特に強調する成果としては、日米同盟の強化について両首脳が一致できたこと、尖閣諸島が安保条約の対象であると再確認できたこと、台湾問題について「力による現状変更」を認めないことや北朝鮮の非核化目標を維持し、拉致問題解決への協力の約束を取り付けたことなど、安保政策についての評価が多い。ただし、そのほとんどは、従来の日米同盟関係を再確認しただけのものだ。日本側が防衛力強化やGDP比2%を達成する予定の2027年度以降もさらに防衛費を拡大すると約束したことが批判されているが、これは、もともと石破首相自身が示唆していた内容であって、米側に何か押し込まれたということではない。