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トランプ大統領が融和的姿勢を見せた理由
追加関税についても日本を狙い撃ちにした具体的な引き上げ提案がなかったことで、「とりあえずはよかった」という評価が大勢だが、今後どんな脅しが投げかけられるかは未知数のままだから、評価できるかどうかは定まらない。
要するに、すべてが既定路線の延長線でしかなく、今後何が起きるかは全く予想できないということだ。だが、逆に言えば、既定路線が全てぶち壊しになることがなかったという意味で、正気とは思えない政策を連発するトランプ大統領との会談の結果としては、「成功」だったと言えるのだ。
なぜ日本の首相がトランプ大統領のご機嫌を取ることが、そんなに重要なことだと多くの人が考えるのだろう。それは、政府自民党が唱える日本の「危機的状況」説が生み出した考え方だ。
北朝鮮、ロシアが事実上の軍事同盟を結び、中国もロシアとの関係を強化して東シナ海、南シナ海での活動も活発化しているように見える。台湾有事は2027年までに起きると予想され、沖縄攻撃は避けられない、その次は日本本土だと彼らは騒ぎ立てる。
これだけ聞かされると、日本は地政学的に難しい立ち位置に置かれ、「危機的状況」にあるという政府自民党の主張は正しいように見える。
そのため、「米国に日本の安全を守ってもらうことがこれまで以上に重要になる」と言われれば、「確かにそのとおりだ」となり、「だから日米同盟が日本の生命線だ」となって、「したがって、米国の機嫌を損ねることは絶対に避けなければならない」という結論が自明なことのように思えてくる。
この理屈で、自民党政権により、集団的自衛権の行使を認めて敵基地攻撃能力を持つためのミサイル開発を始め、防衛費をGDP比1%程度から同2%程度に拡大する道が正当化された。
その延長線で今回の日米首脳会談をとらえれば、いかにトランプ大統領のご機嫌を損ねず、米国が日本を守ると言ってもらうのかが最大のテーマだということになる。
そして、石破首相は、なんとかその目標を達成したと、みんなで安堵しているわけだ。
これだけを見ていると、石破首相は引き続き対米依存一択の外交安全保障政策をとっているように見える。
しかし、少し視野を広げると、それとは全く違った絵が見えてくる。
今回、トランプ大統領が日本に攻撃を仕掛けず、少なくとも表面的には融和的姿勢を見せたのはなぜだろうか。特に何かを求めるのでなければ、石破首相と会う必要はなかった。それなのに、わざわざ会って、石破氏を持ち上げるような演技をしたのは、日本の地政学的な重要性を考えてのことだったと見るべきだ。それはトランプ大統領の考え方というよりも、外交安保を担うスタッフたちの考え方を反映したものかもしれない。