トランプ政権の今後
──失敗するという根拠は何ですか。
まず、一つ目に経済問題があります。ドイツの経済学者、フリードリッヒ・リストは、保護主義がうまく機能するために最も必要なことは熟練労働者の存在だと言っています。ところが、今のアメリカはその熟練労働者がいないのです。トランプの掲げる保護主義政策が進んだとしても、うまく機能することができないというわけです。
たとえば、アメリカとロシアの産業構造を見てみると、自然資源ではそれぞれ石油と天然ガスを生産しています。ただし、アメリカはロシアよりも人口が2倍以上も多いのに、ロシアよりエンジニアを輩出できていません。両国の違いは、労働人口、つまり熟練労働者の存在の有無です。アメリカという帝国、そこにはアングロサクソンの国と、日本、韓国、台湾などが含まれますが、エレクトロニクスを含む先端産業や工作機械の生産分配を見ると、アメリカ本国は空洞で、周辺地域が盛んになっていることが分かります。まるでアメリカという肉体の血液が、体の末端に散っていったというようなイメージです。
イスラエルもアメリカ帝国の一部と言えると思いますが、イスラエルの技術の一部にもアメリカは完全に依存している状況があります。したがって、中心部分の弱体化という問題があるのです。ですから、その保護主義も、熟練労働者がいないような弱体化したアメリカにおいては非常に難しいということです。トランプは、アメリカが力を失った理由を外国企業との競合に問題があるのだと考えていますが、実は問題は国内での競合の方なのです。
二つ目の問題は、ドル覇権です。トランプは、中国やロシアなどでつくる主要新興国BRICSに対して、脱ドルを進めれば加盟国に100%の関税をかけると脅していますが、ドル覇権こそが米国内の産業の発展を妨げているのです。つまり、高学歴の人々の多くが、こういったドルの源泉に近い仕事にどんどん就いていくわけです。エンジニアよりも、金融といったセクターの仕事に就くという流れがあることによって、アメリカのエンジニア不足という問題は決して解決されずに問題は深刻化して、失敗し続けるアメリカというものを持続させてしまうというわけです。トランプは結局何もわかっていないのです。「コモンセンス(常識)」だけでは足りないのです。
(構成/編集部・三島恵美子、通訳・大野舞)
※AERA 2025年2月17日号より抜粋
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