元朝日新聞記者 稲垣えみ子
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 元朝日新聞記者でアフロヘアーがトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】咲き始めた公園の梅

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 先日書いた通り、私、60歳ホヤホヤの定年年齢でして、そこへ持ってきてアエラで定年後の就活特集が。なので一足早く自主定年を迎えた身として、思うところを書く。

 このような特集が組まれるのは「人生100年時代」ってことがあるんですよね。要するに、定年後の人生が長い。その長時間をどう生き抜くかは確かに大きな課題で、ってことで、リスキリング、資格取得、副業経験などで収入を確保し乗り切ろうという話なのでありましょう。

 ただ私が実感として申し上げたいのは、このどう見ても合理的な考え方そのものが、ある落とし穴を内包しているんじゃないかということだ。それは、まず何はともあれお金、という考え方である。幸せになる条件は様々あると思うんだが、その優先順位の筆頭に「お金」を持ってくることのリスクを意識した方が良いと申し上げたいのである。

近所の公園で梅が咲き始めた。寒さの中で咲く梅に定年後の人間が学ぶことは大きい!(写真/本人提供)

 というのは、組織から離れてご近所ベースで生きていると年齢職業様々な人と知り合うことになり、その中に定年後の人もおられるんだが、私の見る限り、そこには自由に生きている人と不自由に生きている人の2タイプがいて、「自由な人」=「お金を持っている人」かというとこれが全く違うのだ。自由な人とは、収入の額や元の地位にこだわらない人たち。生きていくために現場労働など未経験のアルバイトをキャッキャとやっていて、そこから新しい人間関係を広げていける人たちだ。一方の不自由な人とは、それとは逆に、元の地位と収入に囚われて、ステイタスを落としたくないと頑張っている人たちだ。それ自体が問題というより、その頑張りは報われないことがほとんどなので、不満と不安と怒りを抱えがちなのだと思う。そのような人にフレッシュな人間関係が訪れる確率は相当低い。

 ハーバード大の研究によると、幸福で健康な人生を送る鍵は「お金」ではなく「よい人間関係」である。定年退職とは、人生で追求するものの第一位を「お金」から「人間関係」へと転換する好機とすべきではないでしょうか。

AERA 2025年2月17日号

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