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 2011年3月、東日本大震災で被災した69歳(当時)の愛子さん。独り暮らしだった愛子さんは避難所で人と関わるようになった。7月、愛子さんは仮設住宅へ移る。が、次第に愛子さんに変化が──。前作「石巻市立湊小学校避難所」で愛子さんと出会った藤川佳三監督がその8年間を追いかけた記録「風に立つ愛子さん」。藤川監督に本作の見どころを聞いた。

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 最初に避難所で会ったときから愛子さんは声が大きく、場を明るくしようと元気で目立っていました。独り暮らしだと聞き、これからどうやって生きていくのだろう?と思ったんです。愛子さんの発する言葉にも興味を引かれました。全てを失った苦しさを吐露する方が多いなかで愛子さんは震災をちょっと違う視線で捉えていた。この人はどういう人生を生きてきたのだろう、と追いかけました。

 僕と愛子さんは「仲間」のような感じでした。愛子さんは創造力や言葉を操るセンスを持つ魅力的な人です。こんなにも人に対する思いが強く、心の安定をくれる人に僕は出会ったことがありません。

 避難所の人たちと家族のような関係を築いていた愛子さんは、2011年の7月に仮設住宅に引っ越しました。当初はそこでも新しい人間関係を作り長屋暮らしのような生活が送れると期待していたと思います。でもそうはいかなかった。映像になくとも想像していただけるかと思いますが、どこにでもあるような言葉の行き違いなどで次第に周囲とうまくいかなくなってしまったんです。実は13年から4年間はカメラを回していません。おそらく15年くらいから認知症が進んでいたんだと思います。想像以上に住居や人間関係の変化が人に及ぼす影響を目の当たりにしました。ただその部分を深く描こうとは思いませんでした。あくまでも愛子さんに寄り添い、愛子さんの人生や格言のような言葉の数々を追うことが僕の姿勢でした。

藤川佳三(監督)ふじかわ・けいぞう/1968年、香川県生まれ。2012年に「石巻市立湊小学校避難所」を発表。映画「菊とギロチン」(18年、瀬々敬久監督作品)プロデューサー。22日から全国順次公開(c)2024 IN&OUT

 震災だけでなく戦争や病気などで自分のそれまでの生活やコミュニティーが突然なくなることは誰にでも起こりえます。そんななかで自分の人生を一生懸命に生きた愛子さんは、僕らに「生きるって素晴らしい」というメッセージをくれているのだと思います。

(取材/文・中村千晶)

AERA 2025年2月17日号

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