![](https://aeradot.ismcdn.jp/mwimgs/6/2/505mw/img_622bea81543fb5c754015811117d8a9291349.jpg)
「古川の足を引っ張るのが怖くて、『俺はそんなに走れないかもしれない』と伝えたんです。そしたら彼が『立ち止まって(ボトルを)受け取りますから』って言ってくれて、ウルッときちゃって……。だったらやってやろうぜ、と覚悟を決めました」
「ほんとに走れるの?」ざわついた観客
1月3日当日。横浜駅近くの給水係の招集場所に行くと、八田教授は明らかに「異質」だった。周囲はみな出場校の部員たち。ほっそりと小柄な学生の集団の中で、白髪に181センチの長身は嫌でも目立つ。近くで見守っていた妻によると、観客たちは「あの人って誰かのお父さん?」「ほんとに走れるの?」などとざわついていたという。
給水係の中には前日の往路を走った選手もいて、楽しそうにはしゃいでいたが、大半はじっと黙ってスマホ画面に目を落とし、レースの行方を見つめていた。
そんな学生たちを横目に、八田教授は「給水のウォーミングアップ」を始めた。
「周りは『何このおやじ?』って思っていたでしょうね(笑)。でも、とにかく自分の役目を果たさなければいけない。肉離れでも起こしたら大変なので、一人でジョギングしていました」
給水本番、古川選手の姿を見たら泣いてしまうのではないかと思っていたが、実際はそれどころではなかった。風のように駆け抜ける古川選手に必死でついていき、水とスポーツドリンクを渡した。他校の給水係は並走しながら飲み終えたボトルを受け取っていたが、八田教授は自信がなかったため、事前に「飲んだら遠慮なく投げ捨てろ」と指示していた。
ネット上では、「わざわざボトルを拾いに行って偉い」などと話題になったが、八田教授は「大会規定に捨てたものは拾うよう書いてあるので」と苦笑する。