この数年、従業員に賃金とは別に、自社の株式を付与する企業が増えている。政府もこうした動きを後押しする制度改正に本腰を入れ始めた。背景に何があるのか。AERA 2025年2月3日号より。
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昨年9月、大阪市にある鉄鋼メーカー丸一鋼管の社員全員631人(子会社も含む)に同社の株式がプレゼントされた。1人平均で2318株。今年1月時点の丸一鋼管の株価は一株3400円前後で推移しており、800万円ほどの価値になる。同社の平均給与694万円(平均勤続年数18年で39歳)を大きく上回る額だ。
なぜ、こんな大盤振る舞いをしたのか。丸一鋼管は1948年設立で、石松伸一常務執行役員は「古い企業だが、これからはトップダウンではいけない。新しい市場を切り開き、新商品を作り出すモチベーションを高めてほしい。そのためには社員に響くインパクトのあることをやろうと考えた」と話す。
経営陣と社員が理念やビジョンを共有する狙いもあり、株主総会での議決権も与えられる。「定年の時に株価や業績はどうなっているのか。それに貢献するには何をすればいいのか、といったことを考えるきっかけにしてほしい」と続けた。
ただ、従業員は好きなタイミングで株を売れるわけではない。定年退職時に譲渡制限が解除される仕組みで、勤務している時は売却できない。だが、配当はもらえる。丸一鋼管の直近の年間配当は131円なので、約30万円となる計算だ。決して小さい額ではない。
10年間で3倍増
フクビ化学工業(福井市)でも昨年11月、持ち株会に入っている約600人に対し、役職に関係なく1人150株を無償で譲渡した。フクビの株価は800円ほどで12万円程度になる額だ。
フクビの場合は、現在の中期経営計画が終わる年にあたる2028年の12月に売却できる仕組み。中期経営計画の達成と株価の変動を社員一人ひとりに意識してもらうねらいだ。持ち株会の加入率が3割から8割にはね上がったという。
この数年、従業員に賃金とは別に、自社の株式を付与する企業が増えている。従業員に直接、株式を無償で渡すことは禁じられており、企業は様々な工夫をしている。
具体的には、社員でつくる持ち株会に対して「特別奨励金」を出したり、信託という手続きをとったりという手法だ。
課税のタイミングなども考慮に入れる必要があり、企業が証券会社と話し合いながら一つひとつ作り上げている。