昨年も相次いだ闇バイトによる連続強盗事件を受け、政府は2025年の早い時期から「雇われたふり作戦」を導入することを決めた。捜査員が身分を隠して闇バイトに応募し、犯行に関する情報収集や指示役への接触を図る「仮装身分捜査」だ。警察庁は、捜査に関する実施要領をまとめ、1月23日に公表。各自治体の警察本部もこれを踏まえて捜査に乗り出す構えだが、現場や識者からは内容について不安視する声が聞こえてくる。今年は市民が強盗事件におびえず、安心して暮らせる年になってほしいのだが……。
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闇バイトが絡む事件では、指示役は、SNSなどで「簡単に稼げる」「ホワイト案件」などと銘打って実行役を募ってきた。実行役との連絡には、シグナルやテレグラムといった秘匿性の高い通信アプリが使われる。そのため警察側は、実行役を逮捕してもアプリの解析は難しく、指示役まではなかなかたどり着けなかった。そうした状況を打開するための捜査手法として雇われたふり作戦が導入されることになった。
指示役たちは、実行役には身分証の画像を送ることを必ず求める。自宅の住所などをおさえることで、何かあれば親などにも危害を加えるといって脅し、逃げられなくするためだ。
雇われたふり作戦では、捜査員がその身分証を偽造し、闇バイトに応募することになる。架空の人物の顔や名前が記入された運転免許証を作るなどして応募する。捜査員は、指示役とのやりとりを経て犯行を未然に防いだり、実行役を摘発したりする。さらには指示役の逮捕まで結び付けたい考えだ。
23日に公表された実施要領では、仮装身分捜査の対象となる犯罪を、インターネットで実行役を募集している強盗や詐欺、窃盗などとしており、各警察本部長が指名した「仮装身分捜査実施主任官」が捜査指揮、監督をする。事件ごとに実施計画書を作成することも決めた。
身分証は、他の捜査資料とは別の場所で施錠して保管し、電磁的記録についてはアクセス制限をかけるとした。身分証の写真については、AIで生成した画像でもよく、記載の住所は架空とすることも認められている。
刑事法に詳しい甲南大学の園田寿・名誉教授は、雇われたふり作戦を「一定の抑止力がある」と評価しつつも、「内容が抽象的で捜査員が危険にさらされる可能性がある」と指摘する。