利益の追求ではなく、「感動ある人生を共に生きる」ために、市原は八百鮮を創業した(写真/MIKIKO)
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 八百鮮代表取締役、市原敬久。関西で急成長しているスーパー「八百鮮」。生鮮商品に特化しており、新鮮な野菜が安く手に入る。店内には活気がある。人生を賭けた仕事をしたいと、市原敬久がたどり着いたのが八百屋だった。働く楽しみを仲間と分かち合いたい。障害のある人も積極的に採用し、人を大事にした経営を心掛ける。金儲けが目的ではなく、真のかっこよさを追求している。

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 いつからだろう。スーパーの店内で数点の商品しか入っていないカゴを手に、暗い顔で棚の値札を眺める人々の姿をよく見るようになったのは。

 最近この国で、食品の異様な値上げが続いている。今年1月にはキャベツが一玉1090円で売られていると報道された。多くの野菜が2年前の1.5~2倍近い価格となり、4月までにさらに6千品目以上が値上げされる見込みだ。原因としてロシアのウクライナ侵攻、昨夏の異常な暑さ、続く円安などが挙げられているが、いずれも庶民にはどうしようもない問題である。

 いくら値上げされても、私たちは命ある限り食べ物を手に入れ、生きていかなければならない。しかし2年以上続く物価高に、終わりがまったく見えない。その不安が人々の顔を曇らせている。そんなある日、妻から「近所に八百鮮ってスーパーが開店したの知ってる?」と聞かれた。友人が「久しぶりにテンションが上がって爆買いした」と話していたらしい。次の土曜日、八百鮮・魚崎南店を訪れると、駐車場には車が列をなし、店内は人でごった返している。レタス100円、ブロッコリー159円、豚ひき肉100グラム89円。生鮮食品の多くが他店に比べて確かに安く(価格は日によって変動)、しかも一目で新鮮なのがわかる。客のカゴは野菜や魚肉のパックで山盛りだ。気持ちいいのが店内に流れる「活気」である。鮮魚売り場で威勢よく声を上げる店員、上気した顔で食品を手に取る客たち。スーパーというよりまるで「祝祭日の市場」だ。

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父の働く姿を見て 社長に憧れを抱くように