特効薬はまだないため、症状に応じた対症療法がとられる。
「子どもの場合、重症例は39度ほどの高熱が5日ほど続くことが多い。解熱薬を使っても効かなくなると、また熱が上がる。無理して食事をとらなくてもいいので、水分補給だけは十分にするよう保護者に伝えます」
5日以上高熱が持続し、肺への細菌感染(二次感染)が確認されれば、抗菌剤の投与が必要になる。呼吸が困難になれば即、入院して治療する。
リスクを軽視すべきではない理由とは
患者の多くは軽症ですむ。
ただし、「感染増加」と「重症化リスク」を軽視すべきではないと菊田医師は指摘する。
理由の1つ目に、体力の低い子どもや高齢者がかかりやすいこと。2つ目に、ワクチンや特効薬はない、ということだ。
「悪化すると肺炎を引き起こし、酸素吸入などの呼吸管理が必要になります。注意すべきは免疫力の落ちた高齢者です。介護施設内で集団感染が報告されることがあり、亡くなる人もいます」
誰もが感染歴あるはず
ヒトメタニューモウイルスは2001年にオランダの研究者グループによって発見された。遺伝子解析によれば、ヒトメタニューモウイルスは200年ほど前に出現したと推定される。
当時、北海道大学医学部小児科学講座助教授だった菊田医師は日本で初めてヒトメタニューモウイルスの研究に乗り出し、先の迅速診断キットの開発も手掛けた。
「成人であれば、これまでに何回もヒトメタにかかったことがあるはずです」と、菊田医師は言う。
記者はこれまで「ヒトメタニューモ」と診断されたことは1度もない。
「ヒトメタの感染がわかるようになったのは、迅速診断キットができた10年ほど前からです。今でも軽症なら『ただのかぜ』と、診断されるでしょう」
人は乳幼児期にさまざまな呼吸器系ウイルスに感染し、それを繰り返すことで次第に免疫を強めていく。しかし、感染を完全に防ぐ持続的な免疫は獲得できないため、生涯にわたって感染を繰り返す。かぜやインフルの罹患を思い起こせば、わかるだろう。