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 中国で「ヒトメタニューモウイルス感染症」の患者が増えていると、世界保健機関(WHO)が報告した。インフルエンザと喘息を合わせたような症状が特徴の、呼吸器系感染症を引き起こすウイルスで、「日本でも増える可能性がある」と専門家は指摘する。

【写真】昨年の春節祭の様子。観光客らが集まり賑わっていた

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春節が始まり90億人が移動する

 ヒトメタニューモウイルス。

 耳慣れない名前ゆえに、「中国で『未知のウイルス』流行の懸念」と報道する海外メディアすら見かけた。コロナ禍が明けて1年半あまり、ウイルスと聞けば警戒する心理も頷ける。

 いま世界が懸念するのは、中国では今月末から春節(旧正月)が始まり、延べ90億人(同国政府の推計)が国内外を移動することだ。

 日本にはインバウンド客が増えている。今後、ヒトメタニューモウイルスは日本でも流行するのか。ヒトメタニューモウイルスとは何なのか。

ヒトメタニューモはかぜのウイルス

 元北海道大学病院・感染管理室長で小児科医、医学博士の菊田英明医師はこう話す。

「ヒトメタニューモウイルスとは、国内どこにでもいる『かぜのウイルス』です」

 新種のウイルスではなく、これまでも各地で報告されている呼吸器系感染症を引き起こすウイルス――。それが、新型コロナウイルスとの決定的な違いだという。渡航を制限しても感染拡大防止に寄与しないとみられ、WHOは「渡航制限を行わないように勧告」している。

 特に子育て世帯にとって、ヒトメタニューモはなじみの病気の1つだという。

「お子さんを病院に連れてきたお母さんから、『保育園でヒトメタが出ました』と、言われることは珍しくありません」(菊田医師、以下同)

主に気道に感染

 ヒトメタニューモウイルスは主に鼻から肺にかけての「気道」に感染する。特に乳幼児や高齢者は気管支に感染し、炎症を起こす。炎症を起こした部位からの分泌物(たん)が増え、気管支をふさぐため、呼吸が苦しくなる。高熱も出る。

「喘息に似た、ゼイゼイ、ヒューヒューという呼吸音が特徴的な症状です」

 症状は、子どもがかかりやすいRSウイルス感染症と酷似している。ヒトメタニューモと確定するには鼻の粘液を採取して、迅速診断キットで調べる必要がある。その際、「6歳未満で肺炎が疑われる場合」、診断キットは保険適用となる。

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