煙と火があっという間に迫り来る中、自宅を後に避難したロサンゼルス近郊住民の数は、18万人を突破した。「政権が代わっても支援金がもらえるのか」。まもなくトランプ氏の大統領就任式を迎える。現地在住ジャーナリストが被災者らの胸の内を聞いた。AERA 2025年1月27日号から。
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「避難前に、自宅アパートのシャワーの蛇口をひねって水を出したら、浴槽が灰だらけで水が真っ黒に染まった。あ、もう逃げなきゃ危ないと直感した」
そう語るのは、ロサンゼルス(LA)の高級住宅街として知られたパシフィック・パリセーズに隣接する地区に住む60代後半のパティ・ファイナーさんだ。
火災発生から2日後の1月9日、避難命令アラートが鳴ると、愛犬を抱えて車で脱出した。
「自宅アパートが今どうなっているのか全くわからない。燃えてないといいけど……。弟はパサディナ北部のイートン火災の現場近くの家にいるんだけど、なんとか踏ん張ってるみたい」
ファイナーさんの賃貸アパートの家賃は月3千ドル。幸運にも彼女は火災前に「賃貸者用の保険」をすでに購入済みだった。
仮に部屋が焼失していなくても、煙や灰で住めない状態になった場合に清掃費用を請求できるのかと保険会社に問い合わせると、即座に却下されたという。
「こうなったら、頼みの綱はFEMA(フィーマ)しかない」と彼女は言う。
FEMAとは、米連邦政府の「緊急事態管理庁」の略語で、洪水や火災などの大災害を専門とする支援活動組織のことだ。
「火災の直後にサンタモニカに来たバイデンは『LA火災の被害については100%保証する』って断言したよね? 私、あの言葉を信じてる」とファイナーさん。ちなみに、バイデン大統領が100%カバーすると確約したのは消火活動に関する費用のことで、住民の持ち家が全焼した場合にFEMAから支払われる支援金の上限は1世帯あたり4万3600ドルと決められている。
住民の命綱は「FEMA」
その他にも、衣類や食料などの避難時の必需品を賄う費用として770ドルが支払われる。
この未曾有(みぞう)の災害時に、あと数日でバイデンからトランプに政権が代わることをどう思うか、ファイナーさんに聞いてみた。
「有罪判決が確定しても、何とか刑期を免れようとする人が、焼け出されて行き場がない住民のことを本気で考えるとはちょっと思えない」
数日以内にFEMAから銀行口座に770ドルの支援金が振り込まれることを彼女は切望するが、「さすがに数日では無理だろうな。それでもトランプがゴルフコースにいる今のうちに、FEMAへの申請を完了しておきたいし、政権が代わっても彼が予算に手を付ける前に、支援金の流通を極力済ませてほしい」と話す。