上手に気分転換して嫌なことはすぐ忘れる

 高齢になると免疫力が低下するため、感染症などの病気にかかりやすくなり、かつ、病気が治りにくくなる。それは多くの人が知ることであろうが、体の病気が長引くのと同じように、精神的なダメージも引きずりやすくなるようだ。

 加齢とともに喪失体験も自然に増えていくが、例えば家族や友人をはじめとする大事な人との別れや、老いることで失ったもの(健康、仕事、社会的な役割、趣味など)は、抱え込んでしまうと自分の中でどんどん大きくなり、つらさも倍増していく。また、思うようにいかない、うまくできないといった失敗体験や、人との意見のすれ違い、人と争った記憶など、いわゆる「嫌な思い」も、何もしなければ時間とともにどんどん大きなってしまう。

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 うつうつした気分が長引き、引きこもれば人とのコミュニケーションも減る。それが脳の衰えにつながり、動かなければ体の機能も衰えてしまうだろう。

 嫌なことの引きずり方には個人差も大きいようだが、ネガティブな感情を後生大事にため込んでも良いことは一つもない。とっとと手放して、一刻も早く忘れてしまうこと。とくに引きずりやすいと自分でわかっている人は、意識して忘れることを心がけたい。

 私自身はあまり物事にこだわらず、何事も「なるようになるさ」と考える性分なので、負の感情もあまり引きずることはない。ただ、一般的には忘れようと思えば思うほど忘れられない、考えれば考えるほどドツボにはまってしまうのが人の習い。そういう人は、物理的に思考を断ち切ってしまうのが早道だ。

 思い切って全く別のことをする、別の場に身を置くことが大切だろう。おしゃべり好きな人とひたすらしゃべる。囲碁、将棋、麻雀など好きなことに没頭する。カラオケで歌う。好きなドラマや映画を観る。散歩に出かける。おいしいものを食べに行くなど、何でもいいから気分転換になることをしよう。できれば、いざという時のために、自分なりの気分転換の方法をいくつか決めておくのもおすすめだ。

 このように、嫌なことやストレスへの対応がうまくできるようになること、心の持ちようを自分でコントロールするのが可能になることも、健康長寿の秘訣の一つといえよう。

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