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翌日はさんざんだった。あまり眠れず、実家に帰る電車を間違えてしまったり、悪いこと続きだった。
正直、今までの人生でもっとひどい被害はいくらでもあったはずなのに、思っていた以上に私はダメージを受けていたようだ。
なまじ、昔いじめてきていたヤンチャ系の男子たちは謝ってくれたからこそ、それまで話したこともなかったエリート男子からたびたび身体を触られたことは、余計にショックだった。
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それから数週間後。スタートアップ界隈でのハラスメントの問題が取り上げられていた。
顔出しして告発している人たちの姿を見て、過去のさまざまな出来事が蘇ってきた。そして、私も声を上げよう、と思った。
私の胸を触ってきたメガネ男子が務める病院は、名前と地名を入れて検索すると、すぐに分かった。顔写真や経歴もあり、同姓同名の別人ではないことも確認できた。
私は、病院の「お問い合わせ」フォームを開いた。
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その数日後のことだった。病院から返信が来ていた。
「○○医師の件、お伝えいただきありがとうございます。昨日、ハラスメントについて厳しく指導を行いました。本人も反省しています。今後の動きにも注意しておきます」という内容だった。
中学時代は、ひどいいじめに遭っていた。20年後の同窓会で彼らは謝ってくれたけど、そこでは今度は別の人がセクハラをしてきた。
もしかしたら人生って、こういうことの連続なのかもしれない。何かが解決したと思ったら、また別の問題が起こる。いじめもセクハラも、そう簡単にはなくならないだろう。
でもね、私は諦めない。何かあったら声を上げていく。他の人が同じような目に遭わないように。加害者が、自身の過ちにすぐに気づけるように。
「AERA dot.」鎌田倫子編集長から
見下した相手を許さないのはもちろん、自分の心を守るためにも行動を起こすことは大切だと、つくづく感じさせられました。
そしてこうして発表することで社会も変わっていくと思います。