朴被告の自宅の玄関に飾ってあった家族写真。「授業参観の時、他の子たちが『今日うちの親来てるんだよね』って嫌そうに言うんですけど、ちょっとうれしそうで。そういう時、『あ、私のところは(親が)いないんだった』って思います」(次女)

 判決では、夫妻がもみあいになった寝室のマットレスに、佳菜子さんの「唾液混じりの血痕」と「失禁の痕跡」が残っていたことをあげ、「(それら以外に)窒息の痕跡は見当たらない」などとして、朴被告に有罪を言い渡した。

 弁護側は、法医学者の意見書をもとに「二つの痕跡は窒息以外の原因でも生じ得る」と反論しつつ、佳菜子さんの心理状態の観点からも自殺の可能性を訴えてきた。

 差し戻し審で意見書を提出した精神科医は、佳菜子さんが「極めて重篤な精神病症状を伴ううつ状態」にあったとみており、こう話す。

「本来なら入院が望まれる重症患者で、突発的な自殺も十分考えられた。判決では『階段の手すりにジャケットをくくりつけて首をつるのは、自宅における自殺の仕方として奇異』とされていましたが、精神病症状がある患者の行動に、常識は当てはまらない。そんな短絡的な判断を裁判官がすること自体が、奇異と言うほかありません」

拘置所の朴被告から後悔の手紙

 Sさんは、「夫婦仲はよかった。朴君が佳菜子を手にかけるなんてありえない。私は朴君を一度も疑ったことはない」と力を込める。

 拘置所の朴被告からSさんのもとに届く手紙には、妻を守れなかったことへの後悔がたびたびつづられていたという。

「朴君は『仕事よりも家庭にもっと時間を割くべきでした』と反省していた」

 以前、筆者の取材に応じた朴被告は、

「事件当時、(佳菜子さんから)毎週のように『やることがいっぱいあるけど、どれをすればいいかわからない』と電話がかかってきた」

 と話していた。事件の日の夕方には、「夕ご飯のこと考えられない」「涙が止まらない」などと不調を訴えるメールが15通届いていた。

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事件の夜、長女は見ていた…