壮絶な戦いの末にたどり着いた、まさかの全面勝利
いま振り返ってみても、壮絶な戦いだったと思う。「1年ごとの有期雇用のため、契約更新しないのはなんの問題もない、館内で起きた内職事件と職員の更新拒否は無関係」と会社側は嘯(うそぶ)き、頼みの綱だった労働基準監督署も、最低賃金法違反は被害者からの直接の申告がないと摘発できないと逃げる。
発注側の足立区への公益通報窓口にいたっては、「われわれは調査するだけで、指定管理者を指導する権限はない。あなた(N副館長)は、自分の権利を守りたかったら裁判を起こしなさい」と突き放す。救いの手をさしのベてくれたのは、地域労組と、そこに所属する図書館関係者だった。
ほとんど勝ち目のない戦いのなかで、筆者としてはあまたの違法行為を犯した事業者に公務を継続させることだけは、なにがなんでも阻止したかった。
そのためには、民間委託された図書館内で何が起きていたのか、指定管理者は何をして、何をしなかったのか、役所は公益通報をどのように受けとめてどう対処したのかという、「事実」をあきらかにすることに全精力を注いだ。
労組の団体交渉に出席して、経営者に直接、更新拒絶の理由を問い質したり、指定管理者の選定については、応募を検討している事業者のフリをして役所の事業者向け説明会に潜入したり、労組の幹部と一緒に足立区の担当課長に申し入れをしたり、理不尽な仕打ちを受けて沈黙させられている公務労働者の一支援者として動いてきた。
その結果、運よく、違法行為を犯した企業を公務の現場から完全に退場させるという所期の目的を達成することができた。と同時に、一度しか更新実績のない有期雇用の労働者の更新期待権は認められにくいため、最初から、ほとんど勝ち目がないと思われていた裁判についても、弁護団の先生方の鉄壁の法理論によって、まさかの全面勝利という結果が得られたのは、望外の喜びだった。
2年間続いた裁判の期日には、毎回傍聴席をほぼ埋めるほど、地域労組の支援者の方や図書館関係者の方たちが駆けつけてくださったことも、裁判長への多大なるプレッシャーになったのだといまも信じている。
この体験を通じて筆者が学んだのは、声を上げれば必ず誰かが共感してくれて、それを繰り返しているうちに確実に何かが変わるということである。