米ワシントンD.C.にある母校のハワード大学で「敗北宣言」を行う民主党大統領候補のカマラ・ハリス副大統領=2024年11月6日(写真 AP/アフロ)

 トランプ氏の当確が未明に速報された6日、リベラル派市民が多いニューヨークに戻ると、街はいつになく静まり返っていた。友人らの不安な表情と長いハグが待っていた。LGBTQの友人などは涙ぐんでいた。さらに、「(トランプ派は)自分さえ良ければいいんだ」「100ドル減税になるからって魂を売った自己チュー(自己中心主義)」と口々に言い合った。

 トランプ氏の1期目政権を振り返れば、米国あるいは世界の「調和」や「協調路線」は危機に陥ることが目に見えている。トランプ氏が「アメリカ・ファースト」を打ち出し、国内支持者の人気取りをするあまり、自由と民主主義を守ることを継承してきた枠組みや組織はかき乱される可能性が強い。

国際協調路線の否定

 1期目では気候変動対策の国際的枠組み「パリ協定」から脱退した。トランプ氏と共和党は、人類が地球温暖化・環境汚染を引き起こしているという科学的な根拠はないと強調し続けている。また、大西洋をまたぐ重要な軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)も「欧州が米国の軍事力にただ乗りしている」と批判的だ。16年の選挙では、在日米軍基地を撤退させるという発言を繰り返していた。中米関係に絡み、台湾有事などがあった場合、東アジアの安全保障体制はどうなるのか不透明だ。

 こうした重要な国際協調路線をトランプ氏が否定していけば、もはやアメリカはグローバルリーダーではなくなる。単なるわがまま国家に逆戻りし、1期目よりもその度合いが増すと予想される。

 また、米メディアによると、トランプ氏はこれまでライバルだった人物に復讐(ふくしゅう)することも公言している。

 それでいいのか。今回のハリス対トランプの戦いは、「民主主義VS.独裁政治」「団結VS.怒り」「自由VS.差別」の明暗を分けたものだとされた。そうした際、「自分はステーキをくれる人なら誰でもいい」と、不調和を生む人物を選んでもいいのか。これが、「自己チュー」とみなされて、トランプ支持者に対し、「自分さえ良ければいいんだ」という非難の言葉が出ている。

 トランプ氏はすでに四つの起訴された事件のうち1件で有罪評決を受けていることも忘れてはならない。国家のリーダーが調和を破り、常識を守らない、そういう異様な時代が米国に訪れる。

(ジャーナリスト 津山恵子〈米ペンシルベニア州レビットタウン〉)

※AERA 2024年11月18日号

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