事前に「大接戦」と伝えられていた米大統領選挙でトランプ氏が圧勝した。現地で何が起きたのか。激戦州を取材した在米ジャーナリストが報告する。AERA 2024年11月18日号から。
【写真】「またトラ」で分断深刻化 トランプ氏が激戦州全て制する圧勝 現地で何が起きたのか
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米共和党候補のドナルド・トランプ前大統領が大差で再選した。この「大差」は米メディアも読みきれていなかった。自己中心主義の高まりにより、トランプ支持者は思いのほか増えた。
激戦州の一つ、北東部ペンシルベニア州の大都市フィラデルフィアの郊外にあるレビットタウン(人口約5万3千人)。伝統的に民主党が強いこの街が「ホワイトハウス行き(候補)を決めるかも」(地元紙フィリーバーブス)と注目を浴びた。街をくまなく歩いた同紙記者によると、かつては見なかったトランプの立て看板を多く目撃したためだ。今回の選挙で、トランプ派住民が目立ってきたことを示す。
11月5日の大統領選投開票日、レビットタウンを訪れ、Uberに乗った。運転手のハリー氏に「投票に行った? トランプの看板があるね」と聞くと、「(民主党候補で副大統領の)ハリスが勝ったら、この世の終わりだ」と即答だった。
看板の数に10倍の差
ショッピングモールで声をかけたソーシャルワーカーのポーラさんの一言目はこれだ。
「投票したけど、国境がオープン(で不法移民が流入してくる)という問題が心配でね。特にこの辺りでも、3人のティーンエージャーが行方不明になっているのに関係しているからなの。3人とも14歳の〝アメリカ人〟で、(不法移民による)人身売買の疑いがあるの」
地元ニュースによると、14歳女性が1人行方不明で、別の行方不明だった14歳男性は帰宅した。警察は、人身売買の可能性や不法移民との関わりについては発表していない。しかし、トランプ氏は「不法移民は、犯罪人だ。テロリストだ。そこらを闊歩(かっぽ)している」という誤情報を集会で繰り返し発言してきた。そのたびに、トランプ派は発言をうのみにし、熱狂的に声援を送っている。
投票所となっていたミル・クリーク小学校では、トランプ陣営の立て看板の数がハリス陣営の10倍ほどあった。教頭のクリス・ショトル氏は、トランプ氏に投票したという。
「2人の悪者のうち、悪さ加減が小さい方を選ぶという感じだね。トランプの発言は問題もあるが、正直というか、歯に衣(きぬ)着せぬものだ。ハリスは、バイデン大統領の陰になってきたから、未知数で(大統領になる)準備ができていない。それに比べ、トランプがどんな人物なのか、私たちは知っている」