学生時代は運動も勉強も苦手で、明るさや社交性にも欠けていた松本は、ずば抜けた発想力を武器にしてお笑い界のカリスマとなった。そんな彼の言葉には問答無用の説得力が宿っていた。こうして「陰キャこそが面白い」という思想が支配的になっていったのだ。

 その傾向は今も続いている。明るく爽やかな芸風の芸人は、ほかの芸人からしつこくイジられたりして、受け身を取らされることになる。

 天性の陽キャ人間であるキングコングの西野亮廣が、バラエティに出たときに東野幸治をはじめとする芸人たちからどんな仕打ちを受けているかを思い返してほしい。今の芸人たちは「陰キャ目線」を基本にしているので、陽キャは陽キャであるだけで迫害される運命にある。

 でも、お笑いにも多様性があっていい。陰キャ優位の時代だからこそ、陽キャのお笑いの価値が見直されてもいいのではないかと思うのだ。

 柳沢の芸は、典型的な陽キャの芸である。ずっと明るく爽やかで、愛想よく笑顔を振りまいている。自分の好きなことを躊躇なくやり切る強さがあり、その面白さは老若男女に広く伝わる。

 62歳のおじさんが、汗をかいて必死になって、高校野球の試合の模様を1人で再現する。目立ちたがり屋の学生が休み時間に教室でふざけているような、底抜けに明るく楽しいパフォーマンス。光に満ちた陽キャの楽園がそこにある。

 令和の時代に見る柳沢慎吾の「ひとり甲子園」は、面白いを通り越して神々しさすら感じる。お笑い界は陽キャの面白さを見直す時期にきているのではないか。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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