「ママ友ドクター」としても寄り添いたい
その後、都内の大学病院の小児科で発達専門外来を担当するようになったが、当事者の母でもある西村さんは、次第にジレンマを感じるようになった。医師は患者のプライバシーに立ち入らないという不文律があり、診察室で当事者家族と向き合うだけでは、抱える不安に寄り添いきれていないのではないか。
専門医として、同じ当事者の家族として、今よりもっと寄り添いたい――。医師を目指すことを決意した「原点」への思いが、さらに強くなった。
20年、3人目の子どもの産休に入ったことをきっかけに、診察室から“旅立つ”決心をする。自らを「ママ友ドクター」と名乗り、発達障害などの子を持つ母たちに寄り添う活動を始めた。
オンラインや対面で、母親たちとつながる。「ドクター」ではあるが、医療行為はしない。専門医として培ってきた知見を生かし、子育ての仕方についてのアドバイスしたり、子供が診断を受けていない場合、受診する必要性の有無を判断し、信頼できる医療機関を紹介したりするなど、対応する幅は広い。
「専門医であり、当事者家族でもある自分だからできる、新たな発達子育て支援サービスをつくる」。それが西村さんの目指した形だ。今年10月には「日本小児発達子育て支援協会」として社団法人化し、代表理事に就いた。
当事者の母親同士は、初対面でも打ち解けるのは早い。普段は言えない思いを吐露し、涙する母親もいる。西村さんが大切にするのは、そんな母親の不安に寄り添う姿勢である。
向き合っている母親が、何に一番苦しんでいるのか、ていねいに話を聞く。彼女たちが抱きがちなネガティブな思いを、前向きな言葉に変換して、視線を上げてもらう。どうしていいのか分からない、という不安の壁を少しずつ崩しながら、一緒に前に進む道を模索する。
発達特性のある子どもを育てる親は、より大変なことが多い。それでも、西村さんはこう話す。
「長男は言葉の成長が遅かったですが、その分、私に口答えするようになったことですら、涙が出るほど感動するんです。私たちの子育ては、とても大変だからこそ、ほんの小さな成長にめちゃくちゃ感動できる。大変さに、お釣りがくるくらいだと感じています」
同じ当事者の母として、なによりも伝えたい思いだ。
(國府田英之)