南直哉氏
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 夢は叶いにくい。希望どおりにいかないことのほうが多いのが人生だ。そう考えると、夢が破れた時にどうするのか、それこそが重要なのかもしれない。禅僧・南直哉氏の著書『新版 禅僧が教える 心がラクになる生き方』(アスコム)から一部を抜粋し、誰もが抱く「夢」を考えてみる。

【写真】遅咲きながらバラエティー番組で大活躍のこの人 かつての夢は獣医師になることだったという

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 夢が破れたときに、人は損得勘定から離れ、

 自分が本当に大切にしたいものは何かを見極めます。

 夢が破れたときに、初めて見えてくるものがあります。

 絶望の果てにしか見えない風景があるのです。

 以前、ある中学校に講師として招かれました。

 司会をしていた教師に、「これから、ためになるお話をしていただけます」と紹介されたので、「そんな話は、私にはできませんが……」と断って、こう切り出しました。

「私は60歳前のおじさんですから、みなさんの気持ちは少しもわかりません。これからする話がためになるかはわからないが、私にも中学生だった時代があります。当時のことを思い出しながら話すので、自分の役に立つと思ったことだけを覚えていてくれれば十分です」

それから話したことをかいつまんで言うと、次のようなものです。

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 ほかの大人は君たちに夢や希望を持てと言うかもしれない。もちろん、夢や希望どおりに生きられた人間は、けっこうな人生を送れたのだからすばらしい。拍手を送ろう。

 しかし、私が今まで生きてわかったことがある。それは、人生では夢が叶わなかったり、希望どおりにいかなかったりすることのほうがずっと多いということだ。現実では、ほとんどの人間は夢破れる。

 でも、心配するな。夢が破れても人は生きていくことができる。そのほうがもっと大事なことだ。その証拠にまわりを見てみるといい。

 先生や君たちの親が、子どもの頃の夢を叶えて、理想の人生を生きているか? 畑仕事したり、公園のベンチに座ったりしているおじいちゃんやおばあちゃんに、いまさら夢や希望が要ると思うか?

 そんなものを叶えていなくても、みんな十分元気で生きているだろう。だから、夢や希望なんて持たなくても大丈夫。なんの問題もないから、安心していいのだ。

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夢は持たなくてもいい