東浩紀/批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役
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 批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。

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 総選挙が終わった。自公が過半数を割った。2012年以来の一強多弱が崩壊し、新しい風景が見え始めた。

 今後政局がどうなるか。マスコミでもネットでも様々な分析が出ている。屋上屋を承知で記せば、今後の焦点は次の2点だろう。

 ひとつは野党第1党の立憲がどう動くか。立憲は公示前から50議席増の148議席と大躍進を遂げた。しかし比例の得票数は7万の微増にとどまりほぼ横ばい。自民批判票の多くは、同じく躍進した国民、そして新勢力の参政党と日本保守党に流れたと考えられる。議席増は小選挙区制の特質によるところが大きい。立憲が積極的に支持されたわけでないことには注意が必要だ。

 立憲はそもそも寄り合い所帯だ。中道と左派のあいだで争いが絶えない。今回の大勝利を受けてすら、やはり共産と共闘すべきだった、そうすればもっと勝てたとの不満の声が渦巻いている。今後立憲が中道路線を確立し国民や維新と新たな塊を作るのか、再び左旋回し共産との共闘に戻るのかは大きな分岐点となろう。

 もうひとつは世代間対立の行方だ。安倍政権時は自民も立憲も若者の支持を集めていた。

 しかし時代は変わった。社会保障への視線は年々厳しくなっている。今回の選挙戦では自民も公明も立憲も高齢者寄りだと見なされた。共産も支持者の高齢化が原因で退潮した。他方で国民の躍進は若者の支持によるところが大きい。シルバーデモクラシーの弊害が言われて久しいが、年金で損する世代は50代まで拡大している。逃げ切り世代だけ大事にする政治は立ち行かない。今後の政局は左右対立より世代間対立が軸となる可能性がある。

 いずれにせよ、憲法と安全保障が十年一日の如く争点になり続け、与党も野党も身動きが取れなくなっていた「ネオ55年体制」が終わる可能性がようやく見えてきた。

 憲法も安保も大事だ。しかし政治にはほかにも議論せねばならないことがある。左右の罵倒合戦は不毛なだけだ。来年の参院選に向け、与野党が入り乱れて活発な論戦が巻き起こるのを期待したい。

AERA 2024年11月11日号