登頂に成功し、歓喜する隊員たち(左から尾高さん、井之上さん、芦沢さん)

ワンゲル部は人気、でも山岳部は選ばれない

 ベースキャンプに戻ると、極限の疲労から倒れ込むように眠りに落ちたという5人。無事に生還した今、夢をかなえた実感をかみしめている。

「僕はもともと引っ込み思案な性格でした。でも、4年生の先輩たちが未踏峰に挑むと聞いて、これを逃したらチャンスはないと思い、『メンバーに入れて下さい』とお願いしたんです。一歩踏み出せば、案外なんとかなるんだなと自信がつきました」(芦沢さん)

「4年間、周りの友人が飲んだり遊んだりする中でトレーニングをして、クリスマスは毎年山で過ごして、『俺は何やってるんだろう』と思うこともありました。でも目標を達成できて、今までやってきたことは間違ってなかったと思えた」(井之上さん)

 ただ、5人が未踏峰を目指したのは、自分たちの夢のためだけではない。大学山岳部の人気と知名度が低迷する中、少しでも注目を集めるきっかけを作りたいという危機感があった。

 日本山岳会に加盟する大学は、1980年代は約40校あったが、今や20校と半減。5人が所属する大学山岳部の部員数は、「比較的恵まれている」という青学大・立教大・中央大が10人程度で、東大は5人。他大では現役が1人しかおらずOB・OGが支えていたり、廃部に追い込まれていたりする状況もある。

 背景には、冬山装備一式で50万円近くかかるなど費用がかさんだり、競技スポーツでないため報道される機会が少なかったりと、さまざまな要因がある。そのうえで横道さんはこう話す。

「コロナ禍のアウトドアブームの影響で、高尾山に登ったり山小屋でワイワイお弁当を食べたり、楽しい山登りができるワンダーフォーゲル部やハイキング部は人気です。でも、岩壁や氷壁など、あえて登山道ではない道を進む山岳部はなかなか選ばれない。氷点下で1週間お風呂に入れないような苦しい思いなんて、みんなしたくないんでしょうね(笑)」

 では、5人は何に魅せられて、山岳部に青春をささげてきたのか。一人ひとり聞いてみた。

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世間の大人たちに願うこと